中途半端な情報開示が生む混乱
タリーズコーヒージャパンは10月、自社ECサイトへの不正アクセスで、9万人超の個人情報と5万人超のクレジットカード情報が漏洩した可能性があると発表した。
ウェブリスク24時
ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
楽天市場で特定の店舗や商品に対する大規模なやらせ投稿が発覚。楽天は対価を得て投稿していた不正業者に賠償を求めて訴えていたが、結果的に和解したことが報じられた。
ネット購入の際のユーザー評価コメントは購入に少なからぬ影響を与えると言われ、販売者側には少しでも良いコメントを書いてもらいたいという心理が働く。そんな販売店舗にアプローチし、月額8万円で150のコメントを書く契約を121店と結んでいた大阪市のシステム会社に対して、楽天が約2億円の損害賠償を求めて訴えていた。楽天の調査によると不正コメントは約11万4000件あったという。訴えられた会社はやらせ投稿を認め、2015年10月付で和解金1000万円を楽天に支払うことで和解したと報じられた。
ショッピングや飲食店紹介サイト、Q&Aサイトなどの運営会社はこうしたやらせ投稿に頭を悩ませている。投稿コメントの信頼性が損なわれると、サイト全体の信用が揺らぐためだ。
しかし取り締まりは決して容易ではない。こうした行為は、利用規約で禁止事項とされているにもかかわらず繰り返されている。手口は巧妙化し、サイト運営者が不正に気付いたとしても、証拠をつかみ全容を把握するまでに相当な時間と手間を要する。楽天の場合も、訴訟に踏み切るまでに1年をかけて入念に調査したという。
問題の発覚で広報部門も2つの大きなハードルに向き合わねばならない。ひとつは、正確な情報を把握する難しさ。ネット上には不正を問題視する声も流れ出る。デマも含めてネガティブな情報でイメージ悪化やクレーム発生が深刻化する危険性があり、ネット上のモニタリングにも気が抜けない。
もうひとつは情報開示に対する自社内の抵抗だ。監視や取り締まりの体制とやらせ工作はいたちごっこであり、情報開示がさらなる不正の呼び水になるのではないかという懸念が生まれやすい。
訴訟中はさらにハードルが高く、裁判の行方に影響を与えることを危惧して情報開示を控える企業が多い。「訴訟に関することなので/係争中の事案であり/コメントは差し控えます」といった具合だ。
しかし、こうした従来の広報対応のセオリーでは、もはや十分とは言えない。仮に裁判中でも情報開示が不十分なら、対応が消極的・不誠実と見られてもおかしくないからだ。楽天は逆にこうした取り組みを利用者にしっかり伝えることで、年間の取引額が上昇したと言う。
運営各社はシステムと人力の組み合わせで不正を監視している。一方で不正投稿はよく見られることを多くの人は体験的に知っている。クラウド系サイトを見れば、紹介文などが大量に発注されていることは周知の事実だ。客観的事実をベースに、やらせ排除の取り組みの歩みをまとめて公開するなどして、タイミングにかかわらず健全な取引環境の整備に向けて、真摯に取り組んでいる姿勢をしっかり広報していきたい。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組みづくりに取り組む。著書は『エライ人の失敗と人気の動画で学ぶ頭のいい伝え方』(日経BP社)ほか30万部超のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。公式サイトは http://tsuruno.net |