サイト刷新のプロジェクトにおいても、ブランドの視点は欠かせない。先進的な取り組みが光る企業の例を交え、実働のポイントを解説します。
企業のデジタルシフトは止まることを知らない。とりわけ大きな変化を生んでいるのは、企業と生活者のコミュニケーションだろう。生活者の価値観の変化とともに、コミュニケーションメディアの役割は大きく変化しつつある。こうした流れは、企業の広報活動においても大きな影響を及ぼしている。従来のような画一的な情報発信だけではなく、生活者の特性やニーズに応じた最適な情報発信が求められるようになった。
月刊『広報会議』編集部が2015年11月~12月、111社の広報部門を対象に実施した調査によると、「注力したい広報活動ランキング」では1位の「メディアリレーションズ」に続いて2位に「ウェブ・デジタルPR」が入っている。コーポレートサイトのリニューアルを進める企業も多く、39ページのデータにもあるように、2015年に約3割がリニューアルを実施した。「リニューアルを検討中」も同じく約3割となっている。そこで今回は、「ブランド力を高めるサイトリニューアル」をテーマに、そのポイントについて紹介していきたい。
CASE 01
KDDI
www.kddi.com/

キュレーション型で先進性・多様性伝える
コーポレートサイトのメディア化にいち早く取り組んでいるKDDI。トップページにおいても他社のコーポレートサイトとは一線を画す「キュレーション型」を採用している。多岐にわたるサービスラインアップや社会活動をあえて整理しまとめることなく、全方位で見せている。これにより、ブランドの持つ先進性や多様性を生活者に伝えるという姿勢が伺える。さらに「使いやすさ」「分かりやすさ」を重視したメガドロップ型のナビゲーションを採用するなど、デジタルならではの特性にも配慮されており評価も高い。
表面的なリニューアルに注意
「企業のコミュニケーションにおいて、ブランディングが重要だ」と言われているものの、コーポレートサイトで具体化された取り組みはまだそれほど多くない。特にこの「ブランディング」という誰もが知っているキーワードは、本来どのような活動や状態のことを指す言葉なのか、正しく理解されていないことが多い。そもそも「ブランド」とは何か。この言葉自体、広義に使われていることも多く、解釈も様々なので改めて整理しておきたい。
ブランドとして一般的に認知されているものとして、会社の名前(商標)やロゴなどが挙げられるが、これらは識別記号のひとつであり、狭義のブランドでしかない。世界的なブランドコンサルティング会社である米インターブランドは、ブランドについて「活きたビジネス資産であり、あらゆる企業活動を通じて生み出される、識別性、差異化、価値を創出する資産そのものである」と定義している。多くの解釈がある中で、とても納得感のある言葉だ。特にブランドとは一過性のものではなく、時代とともに、生活者とともに、育ち、変化していくものであるという点に共感を覚える。
企業のブランドとは、その企業の文化や価値観などを表現するだけではない。生活者の持つ客観的なイメージも含めて構成されるものであり、企業と生活者双方にとっての価値やイメージが合致して初めて、価値あるコミュニケーションが実現するのである。コーポレートサイトのリニューアルにおいても、双方の価値やイメージを融合できなければ、一方的で表面的なデザインリニューアルに陥ってしまうため注意が必要だ。
CASE 02
星野リゾート
www.hoshinoresort.com/

デジタルチャネルで「旅の準備を楽しくする」
「旅はおもしろい」というマスターブランドメッセージを打ち出し、「星のや」「界」「リゾナーレ」といった3つの主要ブランドで一貫したコンセプトで展開している。テレビCMなどの宣伝活動はほとんどしていないが、それでも高いブランド認知を実現しているのはなぜか。星野リゾートにとってのブランディングとは、「ホテルや旅館(現地)」などのリアルな場所での体験はもちろんのこと、「旅の準備を楽しくする」という宿泊していない旅行の前後のシーンも捉えているからだ。コーポレートサイトというデジタルチャネルを最大限活用し、ブランドメッセージを分かりやすいストーリーとして提供している。
組織は「垂直統合型」へ
企業によるコミュニケーションについて最近よく見かける「モノからコトへ」、「ユーザー体験価値(UX)」というキーワード。生活者の価値観が変化し続ける現代において …