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韓流PRの意外な「お得意さま」とは? 若者を動かした「反喫煙キャンペーン2015」

本田哲也

「反喫煙キャンペーン2015」はマンガにも登場した、指に巻いてタバコが吸えなくなるフィンガーバンドを反喫煙のシンボルとした。

今回は選挙を終えたばかりの韓国のPR事情をお届けしよう。韓国のビジネス界といえば「財閥」の存在が有名だが、実はここに韓国特有のPR事情のひとつがある。まず、ほぼすべての財閥はグループ傘下に広告会社を有している。サムスンのチェイル、現代自動車のInnoceanなどが有名だ。これら財閥系巨大広告会社を中心にした上位10社で、全広告費の実に85%を扱っているのだから、その影響力たるや絶大だ。もちろん、グループ企業の広報にも影響力はおよぶ。結果として、韓国企業では外部のPR会社に広報支援を発注することが、まだあまり一般的ではない。

そんな韓国のPR市場規模はどうなのか。公式には市場規模は算出されていないが、おおむね広告市場の20%以下ぐらいではないかという見方がある。韓国の広告市場はおよそ1.2兆円だから、ざっと2000億円ぐらいの市場規模が見える。ちなみに、日本では広告市場の6.2兆円に対し、PR市場が4300億円程度と試算されている。単純比較はできないけれど、「あれ?意外と韓国のPRって商売繁盛してる?」とも思える。財閥の影響で企業広報やマーケティングPRの需要が限られているのに、どこにPRが活躍する仕事がそんなにあるのだろうか。

その答えが、二つ目の日本との大きな違い。広報PRに多くの仕事を渡しているのは、他でもない「国」――そう、韓国政府と各省庁が、最大のクライアントというわけだ。2003年以降、韓国政府は民意を得るPRを重視してきた。中央政府からは毎年50以上の入札案件が提示され、ソウルなど自治体のそれは年間100件を優に超える。いわゆるパブリックセクターのPR活用が進んでいるから、国民を動かす大きな成功例も少なくない。

2015年の最大の成功例と言われるのが、保健福祉部(日本でいう厚労省)が実施した、「反喫煙キャンペーン2015」。背景には、政府によるタバコ値上げがあった。「喫煙習慣は治せる」ことを今一度、主に若年層に知らしめ、タバコ値上げに理解を促すのが大きな狙いだ。このキャンペーンは、従来のようなマスコミ中心のPRから大きく舵を切ったものになった。韓国で爆発的ブームの「WEBTOON(ウェブマンガ)」を中心に据え、人気作家と組んで反喫煙マンガを制作。さらに作品中に登場させたフィンガーバンドをSNSで反喫煙を表明した人たちに提供し、これをアイドルグループや芸人などがインフルエンサーとして盛り上げていった。結果、キャンペーンでの反喫煙表明者は30万人近くにのぼり、PRは大成功。大きな社会運動となった。

まさに、似ているようで異なる韓国のPR。僕たちとしては、ちょっとうらやましくもある。ちなみに、韓国のPRパーソンに言わせると、日本と「似ている」ところは、メディアとの「連日の飲みニケーション」の重要性、だそうです(笑)。ではまた来月!

本田哲也(ほんだ・てつや)

ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー/戦略PRプランナー。主な著書に『最新 戦略PR 入門編/実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、共著に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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