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実践!プレスリリース道場

ジーユー広報が明かす 大ヒット「ガウチョパンツ」のPR戦略

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

今月は日本経済の牽引企業の一つともいえるファーストリテイリンググループの中にあり、ユニクロの姉妹企業であるジーユー(GU)を取材しました。取り上げるのは2015年4月に発売し、女性たちの間で一大ムーブメントを巻き起こし「日経MJヒット商品番付」にもランクインした「ガウチョパンツ」のリリースです。

とはいえ、私を含め男性には知らない人も多いと思うので簡単に説明を。ガウチョパンツとは裾がゆったりしていてスカートのように見えながら、足の部分は二股に分かれており動きやすいひざ下丈のパンツのこと。南米のカウボーイ「ガウチョ」が着用していた民族衣装に由来し、2014年春夏の欧州デザイナーコレクションで提案され、同社のリサーチャーたちの目に留まりました。

その後、業界紙やSNSなどで情報収集しながら社内協議を続け、好感触を得たことから、2015年4月に戦略商品として投入することを決定。GUからガウチョパンツブームを生み出す意気込みでPRに臨むことになりました。それでもまだ、どの程度需要があるかは未知数だったといいます。そして、2015年1月に大型店とネットで先行販売を始めると、予想をはるかに上回る売れ行きを見せ、特にネットで売れ筋上位にランクインします。

「あえて発表しない」戦略

実はこの先行販売時には、リリースは配信しなかったとマーケティング部PRチームリーダーの長谷太介さんは言います。「どのくらい売れるかリアルな数字を知りたかったので、あえてリリースせずに、ひっそり売り出しました」。こんな風に市場調査的な意味合いであったため、この時点ではリリースを“出さない”という戦略を取りました。

4月10日にはいよいよ本格発売を開始。同時に香椎由宇、波瑠、山本美月が「世界三大美女」に扮するCMをオンエアして話題を呼びます。先行販売の結果が良かったため販売店での士気も高まり、女性店員たちが進んで店頭でガウチョパンツを着用したといいます。

同日、プレスリリースも配信しました。配信会社のシステムを使い、約500社に送り、ウェブメディア・ファッション誌以外にも約100媒体で紹介。『めざましテレビ』『ヒルナンデス!』『ZIP!』『ワールドビジネスサテライト』など、ファッションや経済・トレンドを扱う多くのテレビ番組で紹介されました。これにウェブメディアやファッション誌を加えると、掲載は500媒体に上ります。日経ビジネスや繊研新聞では開発秘話などの特集記事も組まれました。商品力の強さはもちろんのこと、PRやリリースが果たした役割も大きかったと思います。

GUには2009年に発売し、競合他

社も巻き込んで社会現象になった990円ジーンズという商品があり、1年間で100万本を販売し日経MJのヒット商品番付で横綱に選出されました。このガウチョパンツはその勢いを凌ぐもので、2015年末までに300万枚売れたというから驚異的です。「一般的にアパレルは、10~20代に火が付いて主婦層へと広がっていくのですが、ガウチョパンツは小さいお子さんがいるお母さんたちにも支持され、世代や地域にかかわらず売れたというのが今までの商品と違うところでした」と長谷さん。全社がガウチョパンツをヒットさせようと一致団結し、狙い通りムーブメントを巻き起こしました。

散文調で「ワクワク感」表現

では、そのリリースを見てみましょう。まずはタイトルです。この商品に関しては、今回が初めての販売ではなく、既に先行販売で好調だったという実績があり、ヒットしそうな期待感もあります。(ポイント)多くのメディアは「これから流行する商品」を載せたいと思っているので、タイトルでトレンドになりつつあることをうたえば目を留めます。「先行販売の好評を受け、全国販売」「この春のマストアイテム」などの文言が効果的です。

続いて本文で、ガウチョパンツについてまとめています。(ポイント)ガウチョパンツとはどのようなもので、どのように流行の兆しが見えて(先行販売)、今後どのように展開していくか(CM)、そしてそのイメージ写真が簡潔にまとめられていて無駄がありません。ガウチョパンツとは先述したような特徴のある商品ですが、そのメリットはなかなか男性には分かりづらいもの。けれど女性ファッション誌以外のメディアには男性記者が多いため、彼らにも伝わるように書かなければなりません。長谷さんは店舗に行く際に、女性店員たちにどのような言葉で説明すればいいか聞き取り、それを活かした表現をしたということです。

また、本文で注目すべきは「箇条書きではない」ということです。「箇条書きにすると言葉が重複してしまうのと、ファッションならではのワクワク感が減少してしまう」と、わざと散文調にしたようです。私は昔から「箇条書きはリリースの基本だ」と言い続けてきましたが ...

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