顧客や知名度の獲得、他社との連携、社員数の増加と社内コミュニケーション……。起業から間もないベンチャーの経営には、様々な壁が待ち受けているもの。その課題解決の一助となり、成長に貢献してきた広報活動のモデルケースを紹介する。
広報でビジネスを円滑にする
2003年に医療機関向けの経営支援ツールサービスから事業をスタートしたメディカル・データ・ビジョンは、2014年に東証マザーズ上場。2015年、診療情報の一部を患者自身が保管・閲覧できるようになるBtoC向けサービス「カルテコ」をリリースした。カルテコは自身の診察情報を患者側に共有するという、同社が創業当初から目指していた肝いり事業だ。
一方、従来の医療の常識を覆すような試みの推進には、医療機関や患者の理解も欠かせない。そこで、「『カルテを自分自身も見られる病院の方を選びたい』という民意を形成する」との重要なミッションを任されたのが、広報だった。
2011年10月、元々ネット企業で広報を担当していた我妻みづき氏が入社。同社初の広報として、まずは医療関連のメディアとの関係構築に着手した。
「数年後に『カルテコ』をローンチして、患者の皆さんが自由に自分の身体の情報を見られる社会を目指したいという、社長の思い描くゴールは明確でした。ただ当時はマスコミの間では無名に近く、記者とのコネクションも持っていませんでした。そこでまずは、医療系専門誌の記者の方々に当社のビジョンを理解してもらい“ファン”になってもらう必要がありました」と、我妻氏は振り返る。
その足がかりとなったのが、同社の保有する診療データベースから抽出した医療機関の薬剤処方実績などのデータだ。厚生労働省以外は知りえないような貴重なデータを調査リリースに仕立て、これを“土産”に記者へのアプローチを重ねた。
「記事に我々のデータを使ってもらえるよう提案し、コミュニケーションの足がかりにしました。記者の方にデータの重要性を伝えると興味を持ってもらえ、アプローチを断られたことは1回もなかったですね」。病院や医薬品メーカーを主な読者層とする専門誌から始め、次第に一般誌で医療分野を取り上げる記者へ裾野を広げていった。
また、媒体にかけ合い、現在では社員自らが執筆する連載もスタート。ステークホルダーが直接目にする機会の多い媒体に社名が載ることで …