第3セクターとして開業
今回から連載を担当する、いすみ鉄道の鳥塚亮です。地域活性がテーマで すので、私が2009年に公募で社長に就任してから、いすみ鉄道を立て直すまでの考え方や施策、ポイントなどを5回にわたってお話ししたいと思います。私の話をする前に、まずはいすみ鉄道について。いすみ鉄道は全長26.8キロメートル、千葉県のいすみ市と大多喜町の2市町間を走る鉄道であり旧国鉄の木原線を引き継いだ第3セクター*1鉄道として1988年に開業しました。 出資は県、地元自治体、地域の有力企業などが主で、当時全国的に展開した第3セクター鉄道の典型的な成り立ちです。昭和の末期から平成の初めごろにかけて日本全国に走り始めた第3セクター鉄道ですが、どこの鉄道もモータリゼーション、少子高齢化による人口減などの理由により運転開始以来、長い間右肩下がりの状況に置かれています。もちろんいすみ鉄道も同じで、廃止議論が持ち上がっていました。
「広告塔として利用してほしい」
私が公募の社長として着任したのは2009年6月。そのとき、私はまず2つのことが必要だと気付きました。ひとつは、地域の方々とのコミュニケーション。もうひとつは、働いている職員のモチベーションアップです。まず、地域住民の方々とのコミュニケーションについて。一般論ですが、第3セクター沿線の住民の方々は鉄道を守ろうという気持ちが強いと考えています。なぜなら、国鉄が廃止しようとした路線を「自分たちが担うんだ」と宣言したわけですから、「マイレール」としての意識が強い。いすみ鉄道でも、沿線の草刈りに始まり、駅構内の清掃や花の植栽など、長年にわたって住民の方々が自ら率先して鉄道を守る活動をしてくれています。私は外部から入った「よそ者」になりますので、このような活動に積極的に参加するなど、まずは仲間に入れてもらう努力をしました。
しかし、冒頭でもお伝えしましたが、いすみ鉄道は2つの自治体にまたがっている鉄道です。国鉄のローカル線を転換した第3セクターは、たいてい特急列車が走る本線から分岐して内陸部に向かう形で線路が敷かれています。こういう形状の路線の場合、鉄道存続に向けての自治体間の温度差があり、一般的には入り口にあたる自治体は温度が低く、奥にある自治体の温度が高い傾向があるのです。入り口にあたる自治体が奥へ入っていく路線には効果を感じていないのに対し、内陸部にある自治体は、本線(入り口)へ向かう鉄道が廃止されてしまったら陸の孤島になってしまうわけですから、必死になって鉄道を守ろうとします。私が就任した当時、いすみ鉄道沿線にもこういう現象が見られました。内陸部にあたる大多喜町は必死になっていすみ鉄道を残そうとしているのですが、いすみ市側の人たちは、あまり関心がありませんでした。そこで私はこのギャップをなくそうと、いすみ市の方々に語りかけました。「私はいすみ鉄道を全国区にします。そうすればいすみ市も全国区になります。だからいすみ鉄道を広告塔として利用してください」と …