中途半端な情報開示が生む混乱
タリーズコーヒージャパンは10月、自社ECサイトへの不正アクセスで、9万人超の個人情報と5万人超のクレジットカード情報が漏洩した可能性があると発表した。
ウェブリスク24時
ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
災害広報に対応できない自治体の悲劇
鬼怒川決壊などで大きな被害が出た東日本豪雨災害は、広報の観点からも注目すべき大きな出来事だった。自治体の災害広報の体制に、看過できない格差のある実態が浮き彫りになったのだ。
今年9月、栃木・茨城・宮城に特別警報が出され、広域で被害をもたらした東日本豪雨。気象庁は深夜に緊急の記者会見を開き、特別警報の発令と「数十年に一度」の雨量で「最大限の警戒を」と呼びかけた。
被害の大きかった茨城県常総市は、早い段階から市役所のトップページを切り替えた。避難指示やエリアメールの配信に問題があったと後になって指摘されたが、少なくともネット上の対応は早かった。データ量が軽い緊急災害情報用とし、避難所の開設などを知らせる最新情報の更新を始めた。茨城県庁も災害版に切り替え、公式Twitterを最も目立つ場所に配置。サイトを見に来なくても最新情報を受け取れる手段を伝えた。こうした災害版には、ユーザーの利便性だけでなく、自治体が緊急モードで対応していることを伝え警戒を促す意味もある。
一方、栃木では、ほぼ通常モードの情報発信だった。栃木県庁は、ホームページの更新情報を自動ツイートする公式Twitterが、特別警報下、補正予算やイベントの案内などをいつもと同じように流していた。災害広報は自治体間で格差があった。
ネット上には、「他所では発信されているのに、ウチの市では見られない」といった不満の声が噴出した。
災害の警戒を促された人たちは、ネットで情報を探す。自治体が発信する情報は、時に命綱でもある。その格差は、住んでいる自治体で命を守る情報にも大きな差が生まれていることに他ならない。ネット広報は今や災害時に最低限の備えとして位置づけなければならなくなっている。
日ごろのネット活用度や意識の差が今回の対応に見事に表れた。平時にネットを十分に活用できていなかった多くの自治体は、災害時でも緊急対応ができなかった。アクセスが集中してサーバーダウンすることすら想像できず、エリアメールで市役所のアドレスを案内するという基本的な失敗をした仙台市のような例も見られた。
災害広報に取り組む上で最大の課題は、行政の危機管理に災害広報の概念が欠落していること、また平時の広報にさえも明確な基準がないことだろう。緊急時のサーバーの切り替えは準備していても、そのサーバーでコンテンツを更新し続ける発想がないのだ。
常総市は、ネット上の対応に手が足りず、県庁や他の市役所から職員の応援を得て更新を続けた。広報に携わる者としては、時代の変化に合わせて、必要とされる情報を必要とされる形で届けるにはどうすればいいか、イレギュラーな対応も含めて平時から「最大限の警戒」の備えをしておきたい。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組みづくりに取り組む。著書は『エライ人の失敗と人気の動画で学ぶ頭のいい伝え方』(日経BP社)ほか30万部超のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。公式サイトは http://tsuruno.net |