近年、各企業の展示スペースなどPR施設のオープン、リニューアルが盛んだ。従来のショールームや博物館とは異なる、新たなタイプの施設も次々と出現している。PR施設も広義の「自社メディア」と捉え、そのメディアパワーを探ってみよう。
2011年、横浜・みなとみらいにオープンした「カップヌードルミュージアム」。近辺を歩くと、カップヌードルの入ったおしゃれな透明のエアパッケージを持った家族連れやカップルがぶらついており、街の風景にとけ込んでいる。
PR施設はなぜ増えている?
特に2011年以降、あらゆるタイプの企業PR施設が次々にオープン・リニューアルしているようだ。横浜・みなとみらいの「カップヌードルミュージアム」のように、世界で一つだけのカスタマイズ商品を手に入れられる経験と魅力で大ヒットするような新たなタイプの施設も生まれている。また、東京・六本木の「メルセデス・ベンツコネクション」のように、ショールームでありながら「クルマを売らない」ことを標榜するようなスペースも出現している。
企業の「素」を見せる場所
サントリーの工場の案内をはじめ、企業PR施設の受託運営や研修・コンサルティングを行うサントリーパブリシティサービス(東京・千代田)。同社の運営施設・取引先は、10年前には自社施設を中心に40カ所程度だったが、現在は、商業施設のインフォメーションや自治体施設の指定管理も含め、約80カ所へと倍増している。売上も連結ベースで10年前は36億円だったが、現在は62億2千万円に達した。中には大和ハウス工業の賃貸住宅体験館(奈良、栃木)や東海旅客鉄道のリニア・鉄道館(名古屋市)など企業PR施設も含まれる。
同社のワークデザイン事業課長、榎戸香奈子氏に企業・団体の新しいタイプのPR施設が増えてきている印象の有無を尋ねると、やはり「ありますね」とのお答え。榎戸氏自身は、かつて「工場見学」ブームが生じたころ、同社工場ツアーで顧客から「つくり手と話ができてうれしい」との言葉を聞いたとき、世の中の流れが変わってきたことを感じたそうだ。
「お客さまも広告で語られることに対して『本当かな?』と思い始めたのでしょうね。広告が企業のよそ行きの顔としたら、工場見学のようなPR施設は、“企業の素(す)を見せる”ことができます」と教えてくれた。消費者の「ホントのところを知りたい」との欲求が表に出てきたのだろう。
確かに「素を見せる」というのは、テレビ番組からネット、SNSと世のあらゆる側面で顕著になってきている傾向である。そんな変貌が新たなタイプの企業PR施設の誕生を促したのかもしれない。また同じ酒類業界に目を向けると、キリンビールでも、同社工場見学来場者数が2015年1~7月累計で昨年比約2割増となっているそうだ。
1978年に渋谷公園通りにオープンしたJTの「たばこと塩の博物館」は、開館から35年以上経ち、建物の劣化やコレクション増加による収蔵スペースの不足もあり今春、JT工場跡地の押上に移転した。この場合、1960~70年代の高度経済成長期に誕生した企業ミュージアムが数十年経ち、次のフェーズに入ったという意味合いなのだろう。
一方、BtoB企業のソディック社(横浜市)が金属3Dプリンター製造に進出するにあたり、既に関連会社であるソディックLED社がショールームをオープンしていた東京駅近くに情報発信の拠点を立ち上げるべく、あまねく物件を検討した。すると地域の再開発により休眠化している不動産スペースが見つかり、その活用結果としてPR施設が誕生しているというケースもあるようだ。
人気施設の法則3パターン
近年オープン、あるいはリニューアルし、人気を呼ぶPR施設の特徴としては下記の3点があげられる。
(1)時代を反映したプレゼンテーション機能に優れ、体感型の展示が多い
かつての、パネルや商品のケース内陳列という一方通行型展示でなく、来訪客が体感し、インタラクティブなやりとりができる展示が多い。
例えば、「たばこと塩の博物館」ではたばこに関する巨大なメディアウォールがあり、ウォール内の興味ある商品にタッチすると、それが巨大化して詳しい説明が立ち現れてくる。
また有明の防災体験学習施設「そなエリア東京」は、この春リニューアルオープン。体験型展示の「東京直下72時間ツアー」では、見学者にタッチパネル型タブレットが支給され、展示のなかを歩いていくと、エレベーター内で地震に遭い、激しい揺れに襲われる。するとタブレットでクイズが出題され、「地震の際はエレベーター各階すべてのフロアの降りるボタンを押すべきかどうか」などと尋ねてくる。答えると、正答かどうか示され、その理由なども表示される。
また、地震による被害状況のジオラマ展示のなかを歩いていくと、ビルが倒壊してガラスがバラバラと落ちてきたり、マンホールが液状化で浮き上がる様子を、AR(拡張現実)と連動したタブレットで体感できる。
タブレットを貸与され、クイズに答えながら防災の知識を身につける「そなエリア東京」は4月にリニューアルしたばかり。
(2)再訪リピーティングファン化を目指した取り組みが充実
東京・恵比寿の「ヱビスビール記念館」では、「15名いるブランドコミュニケーターには15通りの台本があります」とサッポロビール経営戦略部ビール文化広報室の大登貴子室長が教えてくれた。その歴史を伝える基本ストーリーは同じだが、一人ひとりのキャラクターに合わせ、より盛り上げやすく、語りやすいエピソードが付加されていたりする。見学ツアーの最後には「15通りのシナリオがあるのでまたお越しください」と案内していることもあり、リピーターも多く、年間約23万人が来場しているという。
お台場にあるトヨタ自動車のショールーム「MEGA WEB」では …