中途半端な情報開示が生む混乱
タリーズコーヒージャパンは10月、自社ECサイトへの不正アクセスで、9万人超の個人情報と5万人超のクレジットカード情報が漏洩した可能性があると発表した。
ウェブリスク24時
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暴露された記事修正の要望
掃除機メーカーが新製品発表をし、ネットメディアで記事化された。記事の内容についてメーカー側が修正を求めたところ、メディア側は修正の要望をネタにした記事を出し、注目を集めた。
ウェブメディア「Engadget(エンガジェット)」に4月後半、製品比較の動画付き記事が出た。その3日後、「再掲載:エレクトロラックス、スティック掃除機比較デモ動画に『社名は出さないで』」という記事が出て、これに最初の記事を上回る注目が集まった。
記事では、メーカー側からメディアに対して修正依頼があった事実とその内容が明らかにされ、それを受けた修正動画が紹介された。動画において、メーカー側が実施した他社製品との比較デモを当該メーカーが実施したと言わないで(メディアが実施したことにして)ほしいこと、案内したメディアが限定されていたことから「内覧会」という言葉を削除してほしいという要望だったという。
広報に携わる人なら、公開された記事を修正したくなる気持ちは十分に理解できよう。そして様々な事情から、メディアに要望を伝える場面も、実際には少なからずあるのかもしれない。
しかし、今回の修正依頼は間違いだ。広報担当がメディアをコントロールしようとして失敗、というような話ではない。失敗ではなく、間違いなのだ。
広報がメディアに修正を求めるにはルールがある。原則は、あくまで「事実と異なる場合」に限られる。
つまり、報じられた内容が間違っていて、メディアに自分たちの発信した情報が「間違っていました」と言わせる意味のある修正である場合だ。言い換えれば、読者にとってその修正自体が大切な情報になるのかどうかを広報担当は冷静に判断しなければならない。そこがプロフェッショナルとして守るべき一線であり、メディアに対する必要不可欠な理解と敬意だろう。
今回、Engadgetによれば、エレクトロラックス社による製品比較も内覧会も事実である。内覧会という呼び名は、メディア側が歩み寄って修正に応じたと解釈されるだろうが、その修正は読者にとって大切な情報とは言えない。メディア側もそれを承知で修正に応じ、そして、だからこそ、ネタにしたのだ。
修正の記事と動画が出たことで、最初の新製品紹介の記事を上回る注目を得た。露出面では結果的にプラスと見る向きもある。
しかし現場の印象は恐らく違うだろう。少なくとも記事からは、この内容で修正に応じると思われた腹立たしさが十二分に伝わってくる。
情報を意図的に隠すような企業姿勢が伝わると、その企業自体の信頼性が揺らぐ。それは、簡単に修復できない大きなダメージになる。修正依頼はその事実や理由が仮に明らかにされても恥ずかしくない場合に限ることだ。
鶴野充茂 ビーンスター 代表取締役(つるの・みつしげ)国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組みづくりに取り組む。著書は『エライ人の失敗と人気の動画で学ぶ頭のいい伝え方』(日経BP社)ほか30万部超のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。公式サイトはhttp://tsuruno.net。 |