新しいアイデアや事業は、社内のコミュニケーションの場から生まれることも少なくない。こうした作用を生み出すスペースを設けている企業のオフィス哲学とは?
フロア同士をつなぐ吹き抜けの空間「コミュニケーションハブ」。フロア間をここから移動することで、部署の垣根を越えた偶然の出会いや新たなコミュニケーションが生まれることが期待されている。居心地の良い空間となるよう設計されており、社員は主にリフレッシュのために使う。
自動車の照明などの製造販売を手がけるスタンレー電気。2013年に竣工した本社屋の建て替えを計画したのは2009年ごろから。「恵比寿の前オフィスに仮移転するまさにその前日、東日本大震災が発生しました。耐震性に課題があっての建て替えでしたので、強く印象に残っています」(総務部 部門長 茂内達夫氏)。
この移転計画を含め、グループ内の建設案件はFM(ファシリティマネジメント)課が中心となり実行される。建て替えに伴い、10以上の部門のトップと会社の将来を担う若手の代表者約30人が集められ、意見交換会が実施されるなど、社員の意見も広く採用された。結果、この本社で働くことを誇りに感じる社員が増えたという手応えも感じられるオフィスとなった。
この社屋の一番の特徴は、傾斜部にできる段差を活用した「コミュニケーションハブ」と呼ばれる空間。このスペースは社員たちが自由に活用でき、これまで分断されがちだったフロアを横断した別々の部署間のつながり強化を期待した場所でもある。
これまで10階建てだった建物を7階建てとしたが、建物自体の高さは変わっていない。各フロアの天井を高くしたことや、執務エリアに置く什器やパーテーションの高さを制限したこと、柱を20メートル間隔と広く取ったことなどによる相乗効果もあり、どこにいても窮屈さを感じない。
また、屋根の傾斜部には太陽光パネルを設置することで年間約3万3000キロワット/時の発電を可能にした。吹き抜け部分を利用して執務エリアの自然換気ができるほか、雨水を地下ピットに貯めてろ過することによってトイレの洗浄水や植栽の散水に利用するなど、自然由来の力も有効活用した先進的な省エネルギー性も実現している。
光の企業らしく、吹き抜け部分では春夏秋冬の季節ごとに異なる照明でダイナミックな変化が楽しめる演出も行われ、外からこの建物を見る人の目も楽しませている。