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話題をつくる人の考え方

朝日新聞デジタル本部長が語る「私たちは読者が誰か、分かり始めた」

西村陽一(朝日新聞社 デジタル・国際担当取締役兼デジタル本部長)

5月に開設された「ザ・ハフィントン・ポスト日本版」を運営するザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンの代表であり、朝日新聞社のデジタル事業を推進するデジタル・国際担当取締役兼デジタル本部長の西村陽一氏は、国内外の記者経験を経て、読者により「豊かな体験」を提供するための挑戦を続けている。

5月に開設され、注目を浴びている「ザ・ハフィントン・ポスト日本版」。朝日新聞社はハフポス以外にもCNETなど新興サイトとの提携を進めている。「国際的な他流試合に打って出るため」と西村氏は話す。

紙とデジタルでは、メディアの役割が異なると西村氏は話す。「紙では、読者はあくまでも情報を与えられる立場。一方、デジタルならば情報を得つつ、SNSなどを通して参加する、体験することが可能です。いま、私たちはその『体験』をどれだけ楽しく豊かなものにすることができるかといった観点でコンテンツを作成しています」。

ウェブサービス『朝日新聞デジタル』でも、これまでにないサービスの開発を進めている。たとえば、9月の2020年夏季五輪開催地決定の瞬間は動画でリアルタイム中継し、視聴者は12万人を数え、その日のページビューは98万人に到達した。加えて、社内に眠っていた1964年東京五輪などの膨大な数のフォトアーカイブを「東京五輪」というキーワードで紐付けして公開したほか、五輪専門記者にウェブだけのための記事を寄稿してもらう試みもした。「朝日新聞には、約135年の歴史を持つ記事データや撮りためた写真、専門領域を追う記者がいる。これらのコンテンツとデジタルならではの見せ方を掛け合わせ、いかに読者に豊かな経験をしてもらえるかに挑戦しています」。

7月の参院選報道では、ビッグデータからニュースを生み出すデータジャーナリズムに本格的に取り組んだ。従来の選挙報道は政党・候補者の公約を紹介する一方通行のものが多かったが、それぞれの候補者のツイッターのつぶやきを分析することで、候補者同士、候補者と有権者の関係を可視化して紹介した。サッカーのゴールシーンをアニメーションで再現してリアルタイムのSNSとあわせて見せたり、主催する美術展の展示風景をウェブで再現するバーチャル美術館のサービスを開発したり、次々と新しいサービスにトライしている。「デジタルは、やってみなければ分からない。9月に開設した皇族方の知られざる素顔を紹介するサイト『皇室とっておき』は、ファッションチェックできる点が人気。素材は持っていたのに、紙では埋もれていた例の一つです」。紙をデジタルに、という発想ではなく、紙を越えるデジタルに、がテーマだ。

業界激変の米国で得たもの

今年4月からデジタル本部長に就任した西村氏。「デジタルで伝えること」を意識し始めたのはワシントンのアメリカ総局に赴任した1998年にさかのぼる。赴任早々の1月、クリントン元大統領の不倫騒動が世界中でトップニュースとなった。その情報を先駆けて報じたのは従来のマスメディアではなく新興のネットメディアだった。「2005年までの在米期間は、まさに米国メディアが紙だけでなくネットの世界にチャレンジし、変革し始めた時期。多くの刺激を受け、帰国しました」。

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