機関投資家だけでなく、"ファン株主"を得たいという企業が増えています。本連載では、個人投資家向けに株式の評論を行う櫻井英明氏が、マーケットで選ばれるIRコミュニケーションの秘訣を読み解きます。
小さな変化もリリース
新興市場には多数のIR担当者がいる訳ではない。上司だけがいてルーティンワークは1人だけということが多い。兼務も多くその多忙さは筆舌に尽くしがたい。日常の煩雑な作業を裏で支えるのは、「経営者ではないが会社を代表して株主や投資家に対峙している」というプライドに他ならないと考えさせられるケースにしばしば遭遇する。
いわゆるバイオベンチャーとしてなかなか理解しにくい業態でありながら、熱心な数多いリリースで有名なのがナノキャリア(4571・東証マザーズ)。同社はがんの領域に特化した創薬ベンチャー。社名の由来にもなっている「ミセル化ナノ粒子」を応用した形での新薬を研究している。ミセル化ナノ粒子の効用は患部に直接届き、薬を安定的に放出すること。この技術は、抗がん剤の分野で期待感が高いが抗がん剤以外の分野への応用も期待されている。ドイツ・フンボルト賞を受賞している同社顧問の東京大学・片岡一則教授は「フェラーリみたいに金持ちしか受けられない薬や治療じゃだめ。最先端で高性能で市民にも手が届くプリウスのようなものを開発しなければならない」と言う。また同社の中冨一郎社長は常に「チャレンジ」を基本としている。研究開発面は当然のこととして、ようやく話題になったライツイシュー(新株予約権無償割当)は2010年という早い時期に行っている。(割り当て価格は1万円。株価は今年4月に50万円台まで上昇)。