
ミドリムシ(学名ユーグレナ)は、原子の地球で初めて誕生した生物の一つで、その歴史は5億年以上前にさかのぼる。植物のように光合成を行い栄養分を体内にため、動物のように細胞を変形させて動くのが特徴。
東大発バイオベンチャー、ユーグレナの出雲充社長が手掛けるのは、「ミドリムシの広報」。誤解を解き、魅力を正しく伝え、ファンを増やす。対話を繰り返す広報活動は地道なものだ。
今でも「虫」と思われている

日本科学未来館で2009年に販売を開始したミドリムシクッキーが、来場者に人気でヒット商品に。このことが、ユーグレナの広報方針を見直すきっかけになった。
私がミドリムシの持つ可能性の大きさについて知ったのは、大学3年生のときです。「なぜこんなに素晴らしいものが埋もれているのか。どうして誰も注目しないのだろう」と思ったものです。ミドリムシのビジネス化に本格的に取り組むのはしばらく後のことですが、広報の大事さについて感じたのはおそらくこのときが初めてです。
ミドリムシには多くの素晴らしい特長があります。植物と動物の両方の性質を持っているので、両方の栄養素をつくることができます。その数はなんと59種類にも及びます。大量生産することで栄養素が豊富な食料として利用することができるほか、バイオ燃料としても使うことができます。さらに、二酸化炭素を吸収する能力が高等植物よりもはるかに高く、地球温暖化の抑止にもつながります。
当社では「ミドリムシが地球を救う」をスローガンに掲げ、先に述べたようなミドリムシの素晴らしさについて社員一人ひとりが機会を見つけては説明するようにしています。ユーグレナが行う広報活動は、まさに「ミドリムシの広報」とも言えるでしょう。
学校の教科書にも記載されているくらいですから、ミドリムシの存在すら知らない人はほぼいません。にもかかわらず、「ミドリムシの会社を経営しています」と話すと、多くの人はアオムシやイモムシの仲間だと思ったまま話が進んでしまいます。名前に「ムシ」が付いているから仕方のないことかも知れませんが、そんなときは「ミドリムシは虫ではなく藻の仲間、ワカメや昆布のライン上にあるものです」と説明しています。これはあらゆる方に理解していただくまで繰り返していかなければなりません。なかなか困難な道です。
ミドリムシを使ったサプリメントや食料を販売していますが、商品には自信があります。ミドリムシの良さがひとたび理解されれば、かなりの割合でファンになっていただけますし、なかなか"浮気"はしないものです。また、当社は現時点でミドリムシの屋外大量培養に成功した世界で唯一の企業です。つまり競争相手がいないのです。
私たちがミドリムシの広報に徹することができるのは、こうした特殊な立ち位置にいるからと言えるでしょう。プレイヤーが1社しかない市場などほかにはなかなか見つかりません。他社との品質競争、価格競争がない分、私たちが地道につくり上げていく必要があります。


ユーグレナは2005年12月、それまで難しいとされていたミドリムシの屋外大量培養に成功し、事業化の先鞭をつけた。ミドリムシの研究は国内でも30年以上前から行われていたという。