ビジネスシーンで大きな役割を果たしているダイレクトメール(DM)。テレビCMのような派手さはないものの、その活用法は実務の現場で日々進化を続けている。既存会員の活性化を目的に、クレディセゾンは、月に最大で50パターンのDMを送っているという。そのパーソナライズの考え方を聞いた。
近年は法人向けサービスにも注力するクレディセゾン。このダイレクトメールは、個人事業主向けに発送したものだ。中味は受け手が課題としている5つのテーマを選び、その解決策としてビジネスカードがどう役に立つかを一問一答のような形でまとめている。「内容は多岐に渡るわけですが、どんなダイレクトメールでもクレディセゾンだとわかるような一貫性のあるクリエイティブにしなくてはいけません。それと同時に、ダイレクトメールは上質さが不可欠なように感じますね。同じダイレクトメールでもコストをかけているように見えるのが大切」。
─ダイレクトメールを活用して一定の成果を挙げられているとのことですが、ネットへの置き換えは?
確かに、以前に比べ、紙メディアを用いることへの抵抗は、実際問題として各社にはあるのではないかと思います。これまで以上に、施策としての意義、成果を残すことが求められているのが現状でしょう。
これとちょうど背中合わせにあるのがEメールマーケティングです。不可欠な施策ではありますが、メールならすべて安価に解決できる─そんな思い込みに陥ってしまうこともあるように感じます。現場としては疑問符の浮かぶところです。
例えば、当社には2800万人の会員基盤があります。そのうち1150万人がネット会員ですから、差分の1650万人は非ネット会員になります。この層にはネット以外のコミュニケーションが欠かせません。
では、ネット会員ならネットで全部解決できるか、というとそうでもないのです。ここは画一的な答えを出しづらいところで、常に顧客に適した手段は何かを考え続けることが必要なのだと思います。うまく選び出すことができ、共感を得られれば、売上を獲得できるだけでなく、「ちょうどいいタイミングで情報をくれた」と企業イメージも上がります。逆に間違うと、顧客は簡単に離れてしまう。
特にクレジットカードは商品の差が枝葉末節に至ってきているため、コミュニケーションで顧客の心をとらえられるかどうかが勝負の分かれ目になります。勝ち残っていくために、常に試されているのだ、という感覚があります。
─クレディセゾンのコミュニケーション施策で最も重要視していることは。
顧客にどう受けとめていただくか、という意味で費用対効果を上げるなら、結局はパーソナライズに落ち着くと思います。重要なのはセグメントの深度です。年齢や性別だけでなく、クレジットカードの利用スタイルや履歴なり、打ち出す商材も細分化していますから、かけ算を繰り返すとそのパターンは膨大になります。それなりに労力がかかるわけですが、個々の顧客へ価値ある情報を届けようと、考えて動けば動くほど、ダイレクトメールの効果は上がるというのが肌感覚です。
一律でより多く発送したほうがスケールメリットを出せるのですが、それは刹那的なコスト削減策でしかないと思います。発送コストはかかっても、顧客がメッセージをどう受け止めるかを考えてダイレクトメールのパターンを分けたほうが、結局のところ獲得コスト効率が上がるのではないでしょうか。
─発送部数はどのようにプランニングしているのでしょうか。
CVR(獲得率)に基準を設けており、これは必達の数字です。いまのところ堅調に推移しており、その基準を上回れれば、さらに発送数を追加する、といったプランニングを行っています。
─パーソナライズのために、どれくらいのパターンを用意していますか。
多い月で40~50種類はあると思います。基本的に既存会員の活性化のためのダイレクトメールです。ひとつの商材でも多いものでは10パターンくらいあります。同じサービスでも、顧客が反応する“スイッチ”が異なるので、顧客から見てどんなメッセージがベストかを考えていくと、これくらいのパターン数になっていきます。
例えば、ショッピングのリボルビング払いをもっとご利用いただきたいとき。何をきっかけにリボ払いのことを知って利用したいと考えるかは人それぞれなわけです。普通に考えれば、たくさんの買い物をした結果、月々の支払い額を少なくしたいというニーズがベースになりますが、その伝え方はさまざまです。例えば海外での購入履歴がある、海外ではリボ払いは使えませんから、帰国してから、お困りになるかもしれない。そういう文脈で伝えるとか、定期的に旅行に行かれているようであれば、その時季が近づいたときにお伝えするとか。
その人にとって、サービスが必要とされるシチュエーションをどれだけバリエーション多く見つけられるか、私たちの仕事はそこがキモではないかと考えています。毎回、試行錯誤を繰り返して進化させていく必要がある。1人にいくつものメッセージが届くのはもってのほかで、それであれば、ひとつにまとめ直して1通でお届けしたほうがいい。それが金融サービスとしては王道のところではないかと考えています。これはカードでなくとも、住宅ローンでも投資でも、あらゆる商材に応用可能でしょう。
顧客の皆さまがどんな場面で当社のサービスを必要とされるか。そういうシチュエーションを考えるのに欠かせないのが、100カ所以上あるセゾンカウンターやコールセンターです。ここに要望や不満がどんどん蓄積されていく。そのご要望が表現を考える際の強い味方になっていますね。
ダイレクトメールだけでなく、プロモーション施策に実効性を求める視線はますます強くなるばかりですが、究極的には、一人ひとり適したメッセージを考えるつもりで、顧客を見ていけば、効果は上がるものだと経験から言えます。
個人的にはダイレクトメールを活用する企業は減っているような感覚もありますが、実はそれはチャンスなのではないかとも思います。それだけ手にとっていただける確率が上がりますからね。
クレディセゾン カード事業部営業企画部長 兼営業企画部プロモーション戦略グループ部長 相河利尚氏
DMは人を動かす─「全日本DM大賞2016」
応募締め切り近づく
「全日本DM大賞2015」贈賞式の様子。
戦略性・クリエイティブ・実施効果などにおいて優れたダイレクトメール(DM)を顕彰する、「全日本DM 大賞2016」が作品を募集中だ。応募締め切りは10月31日。表現面だけでなく、他メディアとの相乗効果をもたらしたDM、レスポンス獲得など成果を収めたものなども評価する。応募用紙は今号の巻末に、過去の作品集は公式サイト(http://www.dm-award.jp/)でダウンロードできる。問い合わせ先は全日本DM 大賞事務局(株式会社宣伝会議内)TEL 03-3475-7668まで。