33歳にして初めて付き合うことになった年下の彼氏との、穏やかで幸せな日々を瑞々しい感性で描き、人気を集めている少女漫画『きょうは会社休みます。』。作者である藤村真理氏の素顔は、忙しい仕事の合間をぬって、テニスやサックスなどの趣味も楽しむ好奇心旺盛な女性。その興味関心の広さが、エイジレスな感性を生み出しているのかもしれません。
藤村さんが着ている洋服はお気に入りのセレクトショップからネットで購入したこだわりのもの。たまの外出時にはお洒落を楽しんでいると話す。
─漫画家の方がどのような生活をしているのか読者も興味があると思います。普段の生活パターンを教えていただけますか。
月刊の漫画雑誌で連載を持っているので、毎月締め切りまでの20日間ほどは、ほぼ自宅にこもって作品を描いています。締め切り後の比較的にゆっくりできる期間に、次号の打ち合せをしたり、趣味のテニスを楽しんだり、買い物や美容室に行ったり、友達に会ったりしてリフレッシュしていますね。
─普段買い物はどのようにしていますか?
外に出る時間があまり取れないため、ネットで購入することが多いですね。いま気に入っているのは、福岡にある「MOGGIE CO-OP」という名のセレクトショップ。仕事の息抜きを兼ねて店のブログをチェックして、気に入った洋服が入荷されるとネットで購入していますが人気店のため、すぐに完売してしまうのが悩みです。伊勢丹でもこの店が買い付けるブランドを取り扱っているので、シーズン初めにまとめて伊勢丹に買いに行くこともあります。
─そのセレクトショップのどのような点が好きなのでしょうか?
仕入れる服が可愛くて、私の好みに合っているんです。ファッション雑誌や店頭で見る洋服は若い人向けがほとんどで、可愛いなと思って着てみても、似合わないことが結構ありました。どうしたものかと思案していたところ、友達が教えてくれたのです。特にこの店のマダムの着こなしが好きで、ファッションのお手本にしています。私と年齢が近いマダムの着こなしを見ると、私たちの年代でもこんな着こなしができるんだ、と参考になりますね。自分に似合う服を買える店をやっと見つけた、という感じです。
また、ブログでは、店員さんたちが入荷商品を試着した写真を見ることができます。一枚の服に対して、いろんな着こなしを複数の角度から見せてくれるので、納得した上で安心して買えるのもいいですね。これまではネットで洋服を買うと、サイズが合わなかったり、思ったほど似合わなかったりと、散々失敗してきましたが、この店に出会ってその心配が減りました。自分の体型や雰囲気に合った店員さんが試着しているのを見れば、自分が試着しなくても大体分かりますから。
─洋服のほかに最近購入したものはありますか。
先日、楽天市場に出店している「scope」という雑貨屋さんで、すごくいい商品を見つけました。水だけで汚れに加え菌まで拭き取れるクロスです。この店も商品に対する説明が充実しているのが特長です。最初この商品を見たとき、「クロスといっても、しょせんは雑巾でしょ」と思って、気にも留めていませんでした。でもある時、商品に関する長い説明文を読んでみたら、すごく面白い。「へぇ、水だけでいろんなところが拭けるんだ、しかも拭いた後に繊維が残らないのはいいな」って。すぐに欲しくなり、買ってしまいました。
─『Cocohana』に連載中の「きょうは会社休みます。」が好評ですね。最近の読者像についてお伺いしたいのですが、現代の女性は今どのようなことを求めていると感じますか?
この漫画は、彼氏いない歴=年齢=33歳のOLが、12歳年下の彼と付き合うようになる場面からスタートします。幸せなシーンをたくさん盛り込んでいますが、それが予想以上に読者に受け入れられたことで、「みんな幸せになりたいんだな」と改めて感じました。
これまで物語って、どうなるのか分からないハラハラドキドキ感がいいのだと、私自身ずっと思っていました。人気の作品を見ても、困難を乗り越えて好きな人と結ばれる話や、何人もの男の子と付き合う女の子の話などがリアルに感じられて、流行った時期もありました。それに比べると、この作品は最初から主人公が幸せになってしまいます。これまでなら「物語が続かないなぁ」と思うところですが、今回は担当さんとも相談して、あえて幸せにフォーカスして描きました。
担当さんが言うには、「女性が少女漫画を手に取る理由は、幸せな恋愛の話を読みたいから。そして、恋愛に望むことは、どの年代も変わらない。きちんとした人が好きだし、好きな人には好かれたい。それを素直に描きましょう」と。アドバイス通り、物語上はなんてことはなくても、読者が幸せになれるシーンを入れるようにしています。それがこの作品を引っ張ってきてくれたと思うので、私自身もそこを大事にしています。
─読者からはどのような声が寄せられていますか。
色々な声がありますが、なかでも「恋がしたくなった」とか、「好きな人に会いたくなった」という声があると、嬉しいですね。一方で、物事が上手く進むことへの恐怖のようなものもある気がします。好きな人に裏切られる話がこれまでの少女漫画に多かったのが一因かもしれませんね。「この幸せはいつか壊れるに違いない」などと裏を読んでみたり(笑)。みんなもっと素直に読んでもらえたらいいなと思いますね。
─作品を多くの人に手に取ってもらうため、プロモーションとして実施したことがあれば教えてください。
本屋で手に取ってもらうには、分かりやすいタイトルと帯であることが一番重要だと思っています。帯のコピーは担当さんにつくってもらっていますが、10文字程度でいかに作品の内容を端的に表現して、読者に理解してもらえるかが勝負。この作品なら、「33歳で、処女卒業&初カレ」です。
普段は本もネットで買うので、私自身が帯を見て買うことは少ないのですが、どんな帯があるのか本屋をのぞいてみると、作品の売りを端的に表現した帯は意外に少ない気がします。その代わり、最近増えているのは、「○○氏推薦」や「○○で1位獲得」といったコピー。それを見た人が、「おっ!この人が推薦するなら読んでみよう」と思うなら効果ありますが、そうでもないケースも目立ちます。「○○で1位獲得」にしても、「高く評価されている本だから安心して買える」という購買層もいますが、私自身は、他人に勝手に順位づけされた結果を宣伝文句に使いたいとはあまり思いません。他人任せなコピーが増えるのは、売る方も、買う方も、自信がなくなってきているのかなと思います。
効果のあった施策としては、車内の中吊り広告を実施したときは反響がありました。女性専用車両に期間限定でステッカーを貼ったのですが、通勤中のOLさんにとって「きょうは会社休みます。」というタイトルは刺激的だったようで(笑)、かなりの宣伝効果があったと思います。
─10月からは、綾瀬はるかさん主演でドラマ版『きょうは会社休みます。』が始まります。ドラマ化にあたって、期待することはありますか。
原作と同じように楽しんでもらえればいいなと思います。個人的には、メディアにのることで作品にどのような広がりが生まれるのか、すごく興味がありますね。やはり多くの人に読んでほしいですから。ドラマ化が話題になり、すでに大型書店では作品を平台に並べてくれているところもあります。
この作品は、漫画好きの人だけでなく、普段はあまり漫画を読まない人にも読んでもらえるよう技巧に凝らず分かりやすい表現を心がけて描いてきました。ドラマ化をきっかけに露出が増えることで、この作品を知らなかった人にも読んでもらえる機会が増えることを期待しています。
ⓒ藤村真理/集英社
『きょうは会社休みます。』7巻
藤村真理著 集英社刊
彼氏いない歴=年齢なアラサー女子が、12歳年下の大学生と付き合うことに…。突然の幸せに戸惑いながらも、恋愛に向き合い成長していく姿を描く。10月からは、綾瀬はるかさん主演によるドラマがスタートする。
漫画家 藤村真理氏 (ふじむら・まり)小さい頃から絵を描くことが好きで、「漫画家には当然なれるものだと思っていた」。実力を試すため投稿した作品が採用され、15歳(高校1年)の時、『別冊マーガレット』でデビュー。漫画家以外のこともやってみたい、と作品を描きながら短大にも進学する。『別冊マーガレット』では「あなたに逢うまで…」「降っても晴れても」「隣りのタカシちゃん。」など多くの作品を発表。2011年からは雑誌『Cocohana』で「きょうは会社休みます。」を連載中。 |