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価値創造プロモーションの実践

48万3000人が訪れる自然公園「銀の森」が成長を遂げられた理由

学習院大学経済学部 上田隆穂教授

1.はじめに

【僕たちは急ぎすぎていないだろうか。】

『私たちはもっとゆるやかな流れの中で、暮らしが始まってほしいと願っています。草のニオイを覚えていますか。桜の花は好きですか。星を見たのはいつのことですか。
家族で食事を楽しんでいますか。ここでは、裸足で芝生に寝っころがって流れる雲なんか眺めてほしいと思います。子どもたちは少し服が汚れるくらい遊んでほしいと思います。
木陰で読書としゃれこんで、手づくりケーキを楽しんでください。
鳥が唄い、風がそよぐ「おいしい」「楽しい」「のんびり」の森があります。
忘れかけていた季節がふっとよみがえる感覚再生創造の瞬間。森は僕らの学校です。
「今日をていねいに充分楽しみなさいな」と恵那山は笑う。
またひとつ、おいしいが生まれる 恵那 銀の森。』

これは、恵那にあるレストラン&食品製造施設を有する自然公園「銀の森」のパンフレットの出だしである。この文言により、この企業の目指す方向性、テーマが明らかとなっていよう。この企業は、豆腐製造・販売業からはじまり、寿司・惣菜製造を行い、優れた冷凍技術を身につけ、それを技術的なコアとして、冷凍おせちでも名をなし、ついには「銀の森」というサービスにウェートを置いた企業に進化を遂げている。つまり、製造業を営みつつ、一貫して消費者に近づき、ついには自ら顧客に最も近付く形を取っているのである。冒頭の言葉が語るように、来訪者に安らぎ、おいしさ及び楽しさをもたらすことを目的としている。この銀の森は、名古屋の北部、車で1時間くらいの恵那山付近の山々に囲まれた町、恵那にある。近くには観光地として有名な恵那峡もある。恵那市の交流人口は、2012年に400万人を突破した。この400万人を達成できたのは、2011年にオープンした、この銀の森が48万3000人という交流人口を獲得したことが原因として大きい※1。

※1 岐阜県「観光入込客統計調査」に基づく恵那市作成資料より。

この企業の業務の内容は一見、変化が激しい。なぜめまぐるしい変化を遂げつつ、成長を遂げられたのか。小さな企業が成長する過程をマーケティングの理論を当てはめつつ、検討してみよう。

2.沿革と売り上げ推移の図

この企業の変遷概要は図1に描かれている通りである。社名は、現在、「株式会社銀の森コーポレーション」といい、代表者は渡辺大作代表取締役社長である。資本金は4000万円であり、従業員数は164名(2013年5月現在)。主な事業内容は、業務用冷凍食品、冷凍おせちの製造、総合公園施設「銀の森」運営である。

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