自分の描いた絵が立体になって紙から飛び出して動いてくれたら......そんな願望を「colAR」なら叶えてくれる。
国民的アニメと聞いて、何を連想します? 世代ごとに色々な意見があると思うが、やはり「ドラえもん」は外せない作品の一つだろう。
そう、今は亡き藤子・F・不二雄先生の代表作。22世紀からやってきた猫型ロボットのドラえもんが小学生ののび太の家に居候して、未来の道具を使って彼を助ける話である。1969年に小学館の学年誌に登場して、79年にはテレビ朝日でアニメ化され、今も放映が続いている。親子2代に渡るファンも少なくない。
やはり人気の秘密は、のび太が困った時にドラえもんが四次元ポケットから出してくれる未来の道具である。それらは夢にあふれ、例えば「どこでもドア」や「暗記パン」など、本当にあればいいのに......と願望した経験は誰しもあると思う。もちろん、現実にあるはずもない。
ところが─先日、スマホやタブレット用アプリとして登場した「colAR」は、そんなドラえもんの道具をほうふつさせるアイテム。「自分が描いた絵が立体化して紙から飛び出して動いたら......」という願望を叶えてくれるアプリである。
まず、公式サイトから飛行機や鳥などの下絵が描かれた用紙をプリントアウト。これに好きな色を塗り、次にスマホやタブレットのアプリを起動して、その絵をカメラにかざす。すると─次の瞬間、塗り絵が紙から飛び出して3D映像としてダイナミックに動き回るのだ。自分の描いた絵が立体化して動き回る様子は、まさにドラえもんの道具そのものである。
その種明かしは、AR(拡張現実)の機能。サイトにある専用の塗り絵用紙がARに対応しており、スマホやタブレットのカメラを通すことで、立体化して動く仕組み。ユーザーが勝手に描いた絵が3Dになるわけではない。
このアプリが巧妙なのは、ARの機能とユーザーのカスタマイズ欲を「塗り絵」という手段で結び付けたこと。実はARの技術そのものは以前からあり、さまざまな用途で使われてきたが、今一つジャストなアイデアがなかった。それが「塗り絵」だと、ユーザーはあたかも自分が描いた絵が現実に動き出したように錯覚する。難しい理屈うんぬんではなく、まさにドラえもんの世界観を体現したのである。
そう、大事なのは、技術そのものではなく、いかにシンプルに、難しい理屈ではなく夢を提供できるか。そこにユーザーは惹かれる。「ドラえもんの道具」は、その指標の一つである。
草場 滋(くさば・しげる)メディアプランナー。エンタテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組「逃走中」を企画。著書に「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)、「一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード」(実務教育出版)、「テレビは余命7年」(大和書房)ほか。 |