世界の観客が沸いた! リオ大会 旗引き継ぎ式の舞台裏(前篇)
「安倍マリオ」の登場など、予想外の演出の連続で観客を沸かせたリオ大会旗引き継ぎ式の東京プレゼンテーション。日本を代表するトップクリエイターたちが一丸となってつくりあげたセレモニーの舞台裏を公開する。
企業・社会を変える クリエイティブプロジェクト
神奈川県を走る大手私鉄の相鉄グループが、2017年に迎える創業100周年に向けて「デザインブランドアッププロジェクト」に取り組んでいる。クリエイティブディレクターを務めた水野学さん、丹青社の洪恒夫さん、相鉄ホールディングスの鈴木昭彦さんに話を聞いた。
濃紺に塗装されたシックな車両、本革を採用したボックスシート、ダークグレーをキーカラーに一新した駅舎…今年に入ってから相鉄線に続々と大きな変化が起きている。いずれも相鉄グループが創業100周年記念プロジェクトとして位置づける「デザインブランドアッププロジェクト」の成果だ。このプロジェクトが始まったきっかけは、相鉄のトップの強い思いだったという。「鉄道会社として必要な安心、安全のための視点は徹底されていても、駅や車両、制服と言ったお客さまとのコミュニケーションの接点は相鉄グループのブランドイメージを左右する大きなツールであり、まだまだブラッシュアップの余地がある、と常々感じていたことが、このプロジェクトの立ち上げにつながりました」と相鉄ホールディングス経営戦略室ブランド戦略担当の鈴木昭彦さんは話す。
プロジェクト立ち上げには、もうひとつ背景がある。相鉄線は2019年度にJRと、2022年度に東急線との相互直通運転が決まっており、近い将来、開業以来初めて、都心で相鉄線の車両が走ることになるのだ。そのため、東京に乗り入れた時に相鉄だとわかってもらえるような他社との差別化をはじめ、相鉄線のブランドイメージをつくりあげる必要に迫られていた。ここから、駅や車両、駅員の制服など、沿線利用者の目に入るすべてのものを刷新する方針が決まり、コンペ形式でクリエイターを指名することになった。
長年、相鉄グループの駅や商業空間などの仕事を手がけてきた丹青社のプリンシパルクリエイティブディレクター洪恒夫さんは、このコンペに参加するにあたり、協働するアートディレクターを探していた。「当社はこれまで駅舎や駅ナカの空間は手がけてきましたが、車両や制服は専門外でした。それにこのプロジェクトはデザインでブランドをコントロールすることが求められるので、そのアートディレクターに誰を立てるかが重要なポイントでした。そこでプロダクトも含め、トータルでクリエイティブディレクションをされてきた水野学さんに『一緒にチームを組んでくれませんか』と声をかけたんです」。
依頼を受けた水野さんはこれを快諾。「僕は地元が神奈川県なんですが、お話をいただいて改めて考えてみると、相鉄線っていいも悪いも含めてイメージがない。それが実は宝の山なんじゃないかと思いました」。2人はコンペで求められている「デザイン構想書」の制作からスタートした。洪さんは「駅、車両、制服の3つの核となる明快なコンセプトをつくるために、相鉄線のエレメントである『鉄道会社』『横浜』などのワードを探りながら、議論をすることからはじめました」と振り返る。
相鉄が多数のコンペ案から洪・水野案を選んだ理由は …