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地域の可能性を引き出すクリエイティブ

震災復興の先へ 東北の地で生まれる新しいプロジェクト

MORIUMIUS ほか

2015年7月、宮城県石巻市雄勝町にオープンした「MORIUMIUS(モリウミアス)」は子ども達のための総合複合施設。漁業、林業、農業などを体験するさまざまなプログラムが開催される。そのコミュニケーションに携わってきたコピーライターの後藤国弘さんに、震災後5年を迎えた東北の地でどんなプロジェクトが動いているのかを尋ねた。

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「MORIUMIUS」は廃校になった小学校を改装した子ども達のための複合体験施設。

震災後リニューアルした、木の屋石巻水産の缶詰。パッケージのデザインは佐藤卓さん。

絵本『きぼうのかんづめ』。木の屋石巻水産の復活までのエピソードがつづられている。

福島・大堀相馬焼×宮城・雄勝硯「クロテラス」(福島県西白河郡西郷村/松永窯)

会津木綿のストール(福島県河沼郡会津坂下町/ IIE)。

東京都によるPR映像「2020年。東京と東北で会いましょう。」

東北への入り口は缶詰工場のボランティアだった

コピーライターの後藤国弘さんが東北に携わったきっかけ、それは震災翌月の4月に友人との縁から参加したボランティアだったという。石巻の水産加工会社、木の屋石巻水産は、被災後ほとんどの缶詰が泥に浸かってしまっていた。その缶詰を東京に運んで洗うというものだった。当時現地を訪れた時のことを思い出し、後藤さんは「冷静でいられなかった」という。「いろいろなものが入り混じった臭いが強烈に印象に残りました。現地に何度も通いつづけることでしか、このショックは乗り越えられない。そんなふうに感じました」。

こうして東北をたびたび訪れるようになり、木の屋石巻水産はじめ、東北のさまざまな人や会社のコミュニケーション活動をサポートするプロボノを行うようになった。その中で出会ったのが、避難所に食事を届ける活動をしていた公益社団法人sweettreat 311(当時)のメンバーだ。彼らが、2015年に石巻市雄勝町にオープンしたのが「MORIUMIUS」である。

大きな体験を乗り越えた場所だから生まれる魅力がある

「MORIUMIUS」は、宮城県の北東に位置する町、雄勝町の東端にある旧桑浜小学校の廃校となった校舎を改装し、子ども達のための複合体験施設にしたもの。このプロジェクトを進めた中心人物の一人で、現在は公益社団法人MORIUMIUS理事の油井元太郎さんは、かつてキッザニアの日本導入に関わった人物だ。リアルな自然の中に、子ども達のための体験施設を作りたい、命の大切さを体感する場所を作りたいという思いがMORIUMIUS設立の背景にあったという。約3 年をかけて準備を進め、2015年7月にオープンした。森(MORI)と海(UMI)、そして明日と私たち(US)からなる「MORIUMIUS」のネーミングを後藤さんが、ロゴなどのアートディレクションは棟方則和さんが手がけた。

ここで、子ども達はホタテの養殖の現場を見に行ったり、田植えや薪割りをしたり、自分たちの夕食を作ったり、林業の伐採を体験したりと、漁業・農業・林業などの1次産業に従事する人と触れ合いながら、自然と共に生きる暮らしを体験する。アーティストが参加するワークショップなどもある。SNSや口コミを中心に広がり、2年目を迎える今年は1年目を上回る形で世界中から申込みがなされている。親は、子ども達を心身共に成長させられる他にない場所として、そして同時に、東北の応援につながるという意識も持って参加させている。企業や大人が利用できるプランもあり、こちらも人気だ。「ここは、子ども達が『たくましく生きる』ことを学ぶ場所です。あの震災の体験を丸ごと受け入れた、乗り越えた場所だからこそ、この土地には、たくましく生きているパワーが備わっている。そう感じる人も多いのではないでしょうか」(後藤さん)。復興の努力の先に、この地だからこそ発揮できる場所の魅力が生まれ、それが人々を引きつけている。

「震災の先に行きたい」地元の意識が変わってきた

後藤さんは、そのほかにも福島県で伝統の会津木綿のストールを作る企業や大堀相馬焼の窯元などのブランディングのサポートも行っている。震災から5年が経ち、現地の意識はどのように変わり、サポートに求められることはどう変わってきたのだろう?「『復興市場ではなく、ビジネスの市場に行きたい』『震災の先に行きたい』と彼らの口から聞くことが多くなりました。ですが、それは震災以前に戻るということとは違います。彼らは、震災の体験も含めて自分たちの“ふるさと”だと考えているからです」。その前提で、自分たちの産業やブランドが自身に、そして社会にとって何であり、どんな価値を持てるのか。それを探り、突き詰めながら、歩みを進めている。「若い人たちは本当に頑張っています。彼らと出会ってしまったからには(笑)、少しでも力になってあげたいと思うんです」。

こうして東北の地に縁ができたことがきっかけで、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた映像「2020年。東京と東北で会いましょう。」を手がけることにもなった。震災後、東京都が東北支援を進めてきた一環で、「元気を取り戻しつつある東北の現在の姿を世界に向けて伝える」という目的で作られたものだ。「東北とリアルに関わってきたメンバーでチームを組んで作りました。『東北から世界への感謝を伝える』というコンセプトで、東北の漁師たちに登場してもらう企画なのですが、話をするまでは、本当に協力してくれるのかと不安もありました。でも、彼らは『やりたい』と言ってくれて。『世界中の人に助けてもらったから、そのお礼をするんだ』と。その言葉を聞いて、自分の考えの浅さを思い知って。地元の人たちの視野は大きく広がっていると実感しました」。この映像は、今夏のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックの現地でも放映された。

5年が経ち、復興支援から次のフェーズへと歩みを進めた東北。特殊な経験が新しいチャレンジを促し、新たな土地の魅力を放ちはじめている。

Drive コピーライター 後藤国弘さん

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