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青山デザイン会議

なぜ僕らはこの商品をつくり続けるのか?

軸原ヨウスケ(コチャエ)× 寺田尚樹(テラダモケイ)× 長谷川哲士(minna)

近年、メーカーではなく、クリエイター個人や制作会社が主体となって企画、制作、ときには販売までを手掛けるプロダクトが増えています。ギフトショーなど展示会でも個人で出展しているケースも多く見受けられるようになってきました。そこにはメーカーにはなかった発想があります。そして、通常では実現しにくいスキームを超えて、“これをつくりたい” “これが好き”という個人の強い思いがあります。そうして生まれたプロダクトはある意味、マニアックかもしませんが、多くの人の心をつかむものになっています。今回のデザイン会議では、こうしたモノづくりを続ける方たちにご登場いただきます。折り紙、こけしといった日本の郷土玩具にまつわるものづくりをする軸原ヨウスケさん、模型を通じて作る楽しさと作ることを想像する楽しさを伝えるテラダ モケイ他を手がける寺田尚樹さん、そしてさまざまなブランドにディレクターとして参加する長谷川哲士さん。それぞれのものづくりの原点、自分たちで商品をつくるときの考え方、その商品に対する思いをお話しいただきました。

(左から)長谷川哲士氏、寺田尚樹氏、軸原ヨウスケ氏

なぜ、その仕事を始めたのか?

長谷川▶ 寺田さんとはこれまで展示会などで何度かお会いしていますが、「テラダモケイ」だけではなく、アイスクリームスプーンのブランド「15.0%」もやっていらっしゃると知った時は、意外な感じがしました。それぞれ、どのような経緯で始めたんですか。

寺田▶ 「テラダモケイ」を始めたきっかけは、デザインプロデューサーの萩原修さんに「紙をテーマにしたプロダクトの展覧会に参加しない?」と声をかけられたことでした。僕は、建築設計が本来の仕事。これは建築模型を作るときに、事務所で制作していた人形や木がベースになっています。当初は、こんなに本気でやるつもりはありませんでしたが、反応が予想以上に大きかった。そこで5年前にブランド化して、本格的に始めることにしたんです。アイスクリームスプーンのブランド「15.0%」は、高岡のメーカーから「アルミの鋳物工場の稼働率をあげるために何かアイデアはありませんか?」と聞かれたことがきっかけです。箸置きや鍋敷きなど、鋳物製品は世の中に既にたくさんあり、マーケットとして確立されているので、そこに出ていっても意味はない。そこで新たなマーケットを立ち上げるために提案したのが、アイスクリームスプーンです。クライアントは当初、狐につままれたような感じでしたが、そのくらいコンセプトを絞ったほうが発信力も上がるし、間違いなく注目してもらえると思いました。

長谷川▶ 「テラダモケイ」は普段の仕事の延長から生まれたものだったんですね。軸原さんは折り紙をベースにいろいろとつくられていますが、なぜ「折り紙」だったのですか。

軸原▶ 僕は学生時代は立体アニメーションを制作しており、グラフィックの勉強をしていたわけではないんです。あるとき、友人がつくった折り紙を見て「何かおもしろいことができるのではないか」と思ったことが始まりでした。最初にコラージュで絵を入れた折り紙を、フリーペーパーに掲載したところ、それを見た『装苑』編集部から「アートニューカマー特集で紹介したい」という連絡が来たんです。さらに、『装苑』に掲載された記事を見た大阪のギャラリーから「展覧会をしてほしい」と依頼がきて…。あれよあれよという間に、折り紙のプロダクトが形になっていきました。最近は折り紙のほかに、いろいろなグッズを企画・制作しています。日本の郷土玩具やこけし好きが高じたものも多くて、自分で調べたり、骨董品を買ったりしているうちに、いろいろな人と仲良くなって。

長谷川▶ 引き寄せる力がすごい(笑)。お2人とも、自分が好きなものがベースにあり、それがいまの仕事につながっているんですね。僕も好きなことを仕事にできていますが、改めて「好き」の持つ力の強さを感じました。

    YOSUKE JIKUHARA'S WORKS

    無限に顔が折れる紙のパズルや指人形になるものなど、さまざまなタイプのオリジナル立体折り紙。

    日本の歴史的なシルエットパズルをアレンジした「TANGRAM CHAN」

    コチャエが手掛ける、拠点である岡山・山本永寿堂のきびだんごのパッケージ。

    むすんで楽しい、広げて楽しい、包んで楽しい、見て楽しい風呂敷。

    「ドンタク玩具社」では、オリジナルこけしを制作している。写真は、きせかえ赤ちゃんこけし(左)、「ほしびとこけし」(中)と「ツルの独楽」(右)。伝統こけしや郷土玩具などの作り手である“ 工人さんと共に考え、共に作る” をテーマに従来の郷土玩具の「新しいかたち」を提案。

「好き」なことだけを仕事にしているわけではない

長谷川▶ 僕の会社「minna」は、グラフィック、空間、プロダクトと領域を分けず、さまざまな仕事をしています。立ち上げ時に、パートナーの角田真祐子と「みんなのために、みんなのことを、みんなでやる」という理念を掲げました。ここでいう“みんな”はデザインに関わるすべての人を指していて、特にデザインが入っていない領域や業界、関心がない人にこそ届けたい、自分たちから積極的に出向いていきたいという意志も込めています。 そんな考えがベースにあるので、仕事の依頼を受けたときに、「プロダクト」「グラフィック」というように線引きされることに違和感があります。例えばプロダクトデザインの場合、商品をつくるだけだとどうしても不十分に感じてしまいます。パッケージやカタログ、発表方法や売り場選定、価格決めなど、商品に関することは全て意識して始めて、デザインを社会に機能させることができるのだと思っています。

寺田▶ つくって終わりではなく、伝える、見せる、売るということも含めて全てやらないと …

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