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拡散する時代 人を動かす表現はテレビCMに学べ

福部明浩×永井聡「企画をジャンプさせる演出家の発想法とは?」

福部明浩(catch)x 永井 聡(AOI Pro.)

MATCHやカロリーメイトなどで数々のヒットCMを連発しているプランナー福部明浩さんとディレクター永井聡さんの2人。福部さんがほれ込む、永井さん独特のアイデアをジャンプさせる方法論とは?2人の対話から迫る。

Photo : parade inc./amanagroup for BRAIN

CMは8割方監督のものだと思っている

福部:永井さんと一緒にした仕事はこれまでも色々とありますが、僕が「プランナー人生が変わった」と感じたのは、タレントの手越祐也くんが出演した2012 年のMATCH のCM。このCM は今でも学生に見せると、「一番好き」と言われますよ。

永井:それまでのCMは福部さんがコピーライターとして入る形だったので、プランナーとして組んだのはMATCHが初めてですね。若い人にとってはああいう独特のスピード感のあるCMが面白いんですかね?

福部:カラッとしているところもいいんじゃないですか。他にも満島ひかりさん出演のカロリーメイトのCM も永井さんに演出してもらっていますが、僕はすべてのCMを永井さんにお願いしたいほど一番憧れているディレクターなんです。もともと僕はグラフィックをやっていたから、広告は最後まで自分で完成させるものと思ってました。でも永井さんに演出コンテを依頼したら、こんなにもアイデアをジャンプさせてくれるんだと驚いて。2015 年の広瀬すずちゃんが出演する「MATCH 学園」シリーズでは、企画コンテになかった“ 青春審判” が突然登場したので驚きました。この人、一体どこから出てきたんだ?って。

永井:僕は完成されているコンテより、相談しながら進められるコンテの方が好きなんです。依頼された仕事を受けるかどうかは面白そうかどうかの直感で決めますが、演出家が考える余地があったり、現場でカメラマンたちとどうやって撮るかを相談し合えるコンテのほうが化けると思います。

福部:永井さんは10 本に1 本ぐらいしか受けてくれないから、何を基準に受けるのかは気になりますね。プランナーによっては想像しやすいコンテのほうが企画は通るから、クライアントには絵コンテを渡して、演出家には字コンテを渡すという人もいますが、そういう方がいいんですか?

永井:いえ、いただくコンテはほとんど絵まで描いてあります。でも、例えば撮影アングルにこだわって企画されてしまうとそこから抜け出せなくなるので、それよりも、テーマやコンセプト、ターゲットを絶対にブレないレベルで固めておいてくれると嬉しいですね。そうすると、僕はそれに沿って変化をつけやすいので。福部さんは企画コンテの絵にやたらこだわることがなくて、見た後の読後感やCM のトーン、商品がどうなってほしいかということをうまく説明してくれるので、演出家としては狙いを定めてジャンプさせやすいですよ。

福部:プランナーとしては読後感を変えずにジャンプしてくれる、または方向が合っていて面白くなっていることがベストですね。僕はCM は8 割がた監督で決まると思っていて、永井さんのようなジャンプはありがたいんです。

永井:それ、みんな言いますが、その割には直させたりしますよね、CD って(笑)。

福部:どういう直しが入ると、永井さんは嫌なんですか?

永井:納得がいけば問題ないんです。福部さんの場合には、素材を全部知っているのに、オフラインの時に見て笑っているのがすごいと思う。自分で撮った素材を一回忘れて見るという。視聴者の目線で見て、ここが面白い、ここはもっとこうできるんじゃないかと的確に言ってくれるので、わかりやすいですよ。

想定されていなかったディテールまで作り込むことで世界観が広がる

福部:永井さんはMATCHのCMのように青春モノの演出に異常に向いているディレクターだと思います。ちなみに、永井さんって高校時代はリア充でしたか?

永井:いや、あまり仲間がいなかったからね。そういう子たちに憧れがある一方で、手をつないで帰るカップルをバカにするタイプで。演出家は全体的にちょっと歪んだ部分があって、そこをCMにぶつけるというか、「こういう恋愛があったらいいな」という思い込みがあるので、みんな気持ち悪いんですよ(笑)。だから、僕のギャグはさわやかに笑えずに何か嫌なものが残るという冷めた視点があるのだと、最近になって気づきました。

福部:僕からすると、永井さんの冷めた視点がとても頼りになります。MATCHのCMで言えば、すずちゃんが男子生徒と交差点で出会い頭にぶつかると思わせておいて、実際は男子同士がぶつかる演出。ちょうど同時期に他のCMですずちゃんと男子生徒が普通にぶつかるというものがあったけど、僕は世の中が見たいのは永井さんの現実的な視点だと実感しました。あと、このCMでは、企画コンテでわかりやすいものが、映像でも必ずしもわかりやすいとは限らないということもよくわかりました。

永井:CMで伝えたいことはプランナーが考えてくれるので、僕はCMの中の世界観をきっちり描きたいと思っています。手越くん出演のMATCH「走れメロス」の場合は、メロスの家族構成だけでなく、変人扱いされているけど親友や好意を寄せる女の子もいるとか。単純に変な格好をした男の子が高校にいるだけではなくて、「こういう子が本当にいたらどうなるんだろう」と考えていくと、色々な想像を広げやすいし、見ている人も続きが見たくなると思う。出演者にも設定を具体的に伝えた方が、キャラクターを演じやすくなります。

福部:メロスは企画コンテでは特に家族や友だちはいなかったんですよ。それを、永井さんが世界観を膨らませてくれました。

永井:世界をなるべく細かく描いて、それが視聴者に伝わるかどうかは別にいいんです。演出家として最低限きっちりやっておいて、そこで初めてみんなに説明できるようになるのだと思います。

福部:同じ主人公でも、バカにされている変人なのか、それともなんだかんだ周りに愛されているかで、全く印象違いますから。

永井:CMの演出では主人公を掘り下げるとターゲットが限定されるのでよくないと言われることがありますが、ゴクゴク飲んで、素敵な笑顔で終わるだけでは、何も残らないと思う。見た人の心に残すには、きっちり人間を描いてあげないと。



ディテールが企画の背骨を矯正することもある

福部:CMのよさは時間が短いところです。「何だったんだアレは?」と思わせられれば ...

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