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デザインの見方

シンプルで、潔いコミュニケーション

岡本 学

シンプルで、潔いコミュニケーション

キャメロン・ディアスとブラッド・ピットが携帯電話をかけながら歩いている――2006年に放映されたソフトバンク(当時、ソフトバンクモバイル)のCMを見たとき、すごい衝撃を受けました。僕はその頃、サン・アドに入社して9年目。理想の仕事や表現のイメージはあったものの、うまく実現できずにジレンマを抱えていました。そんなときに見たソフトバンクのCMには僕がやりたいと思っていたことが完璧に表現されていて、もうこの先自分にはやることがない、本気でАDを辞めようかな…と思ったほどでした。

あの一連のキャンペーンは、ソフトバンクのロゴマークを起点にCMやグラフィック、店頭まで全てが一貫してつくられていました。CMは懐かしい洋楽をBGMに、2人が軽快に歩きながら電話をしているだけの映像。ナレーションもコピーも一切なく、最後に「=SoftBank」。グラフィックも、人物や商品の近くに「=SoftBank」のロゴのみ。このシンプルで潔い表現によって、携帯電話=ソフトバンクであり、すべてのものがソフトバンクにつながっている、答えはソフトバンクが出すというイメージが強く印象づけられました。

このキャンペーンが立ち上がる少し前に、僕はYahoo! BBのグラフィックを担当していました。そのときに、発表前の新しいロゴマークを見る機会があったのですが、シンプルでいいなとは思ったものの、そこまでの衝撃はありませんでした。でもCMやグラフィック広告を見て、そのロゴの意味、すごさがようやく理解できたんです。

誰がつくったロゴなのか調べてみたら、大貫卓也さんだとわかりました。僕はご本人にお会いしたことはありませんが、以前読んだインタビューに、「孫正義さんの尊敬する坂本龍馬の海援隊の旗印(3本線で上下が赤で真ん中が白)がモチーフ」「日本に革命を起こした龍馬のように孫さんが通信業界に革命をもたらすことをイメージしている」とありました。そのデザインをイコールに見立て、2つの意味が込められていると知ったときは、痺れましたね。

大貫さんはいつも「АDがプロジェクトを引っ張っていかなければいけない」とおっしゃり、それを自ら実践しています。このCMはまさにロゴマークがキャッチコピー。おそらく大貫さんはその考えで、他のコピーを入れさせないぐらいの勢いで突っ走っていたのではないかと思います。他にも、「削ぎ落としてシンプルにするのではなく、凝縮してシンプルにする」とおっしゃっていたと記憶していますが、これは実現するのが本当に難しい。でも、このロゴマークはまさにそれを表現しています。

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