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カンヌライオンズに見る世界の広告2016

データはクリエイティブを待っている

古川裕也(電通)

WHAT IS DATA?

データの専門家ではない僕のところに「クリエイティブデータ部門の審査員をやってほしい」と直接メールが来ました。しかもぎりぎりのタイミングで。もっと適切な人がいると一度辞退したんですが、そうもいかず。けれど、審査してみて指名された意味はよくわかりました。いわゆるクリエイティブ側のジャッジの視点が必要だったのだと思います。でも、ほんと参加してよかった。データというと即マーケティング・ソースと思いがちですが、それはデータの広大な可能性のほんの一部にすぎないことがよくわかりました。データという新しい道具を駆使して初めて可能なクリエイティブ表現が明らかにある。

そういえば2年前、カンヌチェアマンのテリー・サベージと対談した時、カテゴリーの相談を受けました。そのとき提案した3つのうちのひとつがデータでした。カテゴリー新設のきっかけになったのは、「Sound of Honda」と「British Airways」だったはずです。クリエイティブデータ部門は今年が2年目。1年目グランプリが出なかったのはこのふたつを超えるものがなかったからでしょう(そういう意味では今年もなかったのだけれど)。審査員長は、今年の審査員の仕事は「この部門の存在価値」をメッセージすることだと言っていました。けれど、クライテリアもデータの定義も、確定がなかなかむつかしく、常に誰かが「What is data?」と言い出して、そこを議論することが続きました。

グランプリを争ったのは「The Next Rembrandt」と「The Field Trip to Mars」。最後は決戦投票になり、8:2で前者がグランプリに輝きました。僕個人は未来に向けたビジョンとメッセージを持つ後者のほうが、クリエイティブアイデアという意味で相応しいと感じていました。でも、データの専門家からすると、VR体験を提供する「The Field Trip to Mars」は「肝のテクノロジーがデータじゃない」「フィジカルすぎる」という判断が多かった。僕らが普段手がけるキャンペーンにおいて「フィジカル」はたいていほめ言葉ですが、彼らから見ると好ましくないようです。そもそも”Creative Data”というタイトルが不正確で、本来“Creativity with Data”であるべきだという人がいました。その通りだと思います。「アドテクVSクリエイティビティ」という図式でよく語られますが、それは不毛で、より高いクリエイティブワークのための手段としてアドテクがある、ということだと思います。

「The Next Rembrandt」はレンブラントの全346 作品をデータ化、人工知能がディープラーニングを駆使して、レンブラントの微細な特徴を完璧に把握し、そこから絵を描くとこうなる、というもの。そのプロセスが群を抜いていました。けれど僕からすると、それによってできた絵を見た人が本当に感動するのか、と少し疑問でした。クリエイティブデータという以上、どうしても、クリエイティブアウトプットより“process of using data”がいちばんホットなイシューになります。結局、データの定義とカテゴリーの意義という大きな宿題は来年を待とうということになりました。

審査してみて、データがクリエイティブ の仕事の中に当然のように重要な武器として機能していることがわかりました。日本は、「Sound of Honda」のような圧倒的事例を持っていながら、ジェネラルな種目になっていない状態です。

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