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トップクリエイターのすごい打ち合わせ

世界の拠点で協業制作 打ち合わせの舞台裏

日立製作所

日立グループでは、今年5月より世界19カ国で新グローバルブランドキャンペーンを一斉ローンチした。東京の日立製作所ブランド・コミュニケーション本部と世界各国の日立グループの拠点、さらに電通、同グループの電通BOSと共に制作にあたった長期プロジェクトだ。その舞台裏にはどのような打ち合わせがあったのか。

日立東京本社、グローバルチームのミーティング(上)、電通BOSでの制作者ミーティング(下)。

世界10カ所の日立グループ拠点のコミュニケーション責任者が参加

日立グループが日本も含めた全世界でグローバルブランドキャンペーンを行うのは今回が2 度目となる。第1 弾は2013 年より3 年間、高度なITで社会インフラを支える同社の社会イノベーション事業をアピールし、世界で日立ブランドを高める狙いで展開した。そして今年5月に始まった第2 弾は「THE FUTURE IS OPEN TOSUGGESTIONS( 未来は、オープンだ。アイデアで変えられる。)」をキャッチコピーに、進化した社会イノベーション事業で、お客様やパートナー企業との「協創」を加速させ、社会課題を解決していく同社の姿を描く。いずれも、同社の中期経営計画と連動した内容になっている。

 本キャンペーンの開発には、東京本社を中心に、世界各地の日立グループ10拠点のコミュニケーション責任者が参加。また、第1弾に引き続き本キャンペーンを担当する電通では、東京本社、そしてカナダが拠点の電通BOSとで共同チームを編成している。時差も物理的な距離もある複数拠点をつないでの広告制作。一体どのように打ち合わせを行っていたのだろうか。「日立グループ内では、半年以上をかけ、海外拠点を含むグローバルチームで継続的な議論を行ってきました。年に1回顔を合わせて行う会議で大事なポイントを議論し、そこから内容をテレビ会議や電話会議で詰めていく。さらに細かい事項を日々電話やメールで確認しています。国や地域によってビジネス状況も違えば、商習慣も異なるので、この言い回しでいいのか、文化的な問題はないかなど、確認事項は日々尽きることがありません」と日立製作所 ブランド・コミュニケーション本部 宣伝部長の伴野明さんは話す。

 文化も価値観も違うメンバーを巻き込むために、プロセスを透明化し、どのように進んでいくのかを先に見せることを心がけた。「それから、大事なのは会議の場でしっかり意見を言ってもらうことです。各国とオリエンシートを共有する時も、あえて作りこまずに“生煮え”状態で出し、意見を言いやすくしました。決まった後から『こう決まったから』ではうまく行かない。意見を出してもらい、反映するプロセスを経ることで、チームが一つにまとまります」。

大きな会議の前には、円滑に進行するため、各国の事情を事前にヒアリングしておき、現場で“ 根回し” 的なことも行い、状況をよく理解してもらうようにしたことも。会議後、個別のフォローもきめ細やかに行った。こうした配慮と気配りによって、社内の協力体制を引き出していった。

2016年から開始された新グローバルブランドキャンペーン。グラフィックでは、「アイデアメモ」をモチーフに、多様な人たちが協創し社会イノベーションが加速していく姿を描く。映像では、登場人物4人の協創のストーリーがエモーショナルに描かれる。

東京、モントリオールのグローバル電通制作チーム

電通チームは、戦略を東京本社と電通BOSが共同で担い、映像・グラフィックなどを中心とした制作は電通BOSという役割分担だ。日立製作所からのオリエン前段階とオリエン後、事前情報共有と制作者用のブリーフを作ったタイミングそれぞれで、2社のコアメンバーで対面の打ち合わせの場を持った。「テレビ会議があるとは言っても、一度は顔を合わせないと、信頼関係は作りづらいもの。カルチャーの違うチームで進めるプロジェクトには、必ず紆余曲折が生まれます。だからスタート地点で認識をずらさないことがまず大事です。制作者用ブリーフはその役割を果たしています。日立さんからのオリエン内容に加えて、日本ではどういう企業イメージを持たれているか、広報宣伝に対してどんな考え方を持った会社か、といった情報を盛り込んであります。細かな知識のギャップを極力埋め、必要なことは明文化する。すべての過程でそれを大事にしました」と電通CDCのコミュニケーション・プランニング・ディレクターの木村啓太さんは言う。

電通 コピーライター/ CMプランナーの小山孝さんは「クリエイティブの作業は、基本的に電通BOSの中で進めてもらうので、僕自身はクライアントとのやり取りがスムーズに進むよう、2者間の“翻訳”をしてつなぐのが役割でした」と話す。なぜクライアントはその修正を要望しているのか?背景を説明し、修正することで表現がこうよくなると、なるべくポジティブに伝えるようにした。その時に心がけていたのは、日本基準で考えないこと。「我々の基準で考えては、このチームでやる意味がない。大きなディレクションを外さないよう気をつけながら、わからないものに寛容な姿勢で臨みました」(小山さん)。

初回の打ち合わせ時以外にも、クライアントも含めたオールスタッフの対面の打ち合わせの場が数回設けられた。電通BOSのチーフ・クリエイティブ・オフィサー セバスチャン・リヴェストさんは、「それが結果的にスムーズにプロジェクトを進めることにつながった」と話す。「クライアントも含め、同じ時間を共有し議論を深められたことは、何物にも代えがたい。特にクリエイティブの提案、その後の議論において『打ち合わせの場』があることはとても重要で、チームとしてより一層深い信頼関係を生むことができたと思っています」。 通常のやり取りはテレビ会議を活用していたが、時差もあれば、各国の休日も異なるため、何事も通常の進行より時間がかかる。全体のスケジュール管理と段取りがとにかく肝要だった。ここは営業担当者の手腕が発揮されたところだ。

「世界中の人の目を通して、各国の文化的なフィルターをかけながら完成させていく。大変なことも多かったですが、伝えたいメッセージをどれだけ普遍的にできるか、世界のチームメンバーと詰めながら考えていく作業は、他の仕事にはない面白さがありました」と木村さん。「言葉やカルチャーは違っても、広告の作り手の『前向きでいいものを作ろう』という姿勢は世界共通で、だから一緒に仕事ができた。それが僕にとっての発見でした」と小山さんは言う。

これだけ広範な地域で、長期間にわたりテレビCMも含めて展開するグローバルキャンペーンは、日本企業では珍しい。打ち合わせなどの制作プロセスを含め、今後も参照される先行事例となるだろう。

制作協力/電通

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