クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第88回目は、グラフィックデザイナーの橋詰 宗さんに、仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『さまざまな空間』
ジョルジュ・ペレック(著)、塩塚秀一郎(訳)(水声社)
まずは表紙の一節の引用から。「…問題なのは空間を創造することではないし、まして再創造して空間に新たな価値を与えることでもない(中略)。そうではなく、空間に問いかけること、あるいはもっと単純に、空間を読むことが問題なのだ。なぜなら、日常と呼ばれているものは、自明であるどころか不可解そのものであり、一種の盲目、麻痺状態のことなのだから。」
ペレックの著書の中ではじめて手にしたこの本は私にとって大きな価値観の転換をもたらした一冊である。目次もない冒頭から読者の読み方が大きく問われる。謎解きのように散りばめられた言葉の数々。しかし読み進めるにつれ読者の頭の中には独自の地図が描き出だされる。それは冒頭のルイス・キャロル『スナーク狩り』の海洋地図のように、万人の為のものではなくそれぞれの中に立ち現れるものなのだ。ページというメタ的な単位から寝室、集合住宅、町、国へとその空間を広めながら一貫して著者は我々に「問い」を促している。そして思考は軽やかに開放され、広がりを持っていく。読書という体験そのものにつきまとう模範的な読みを超えることではじめて読み手は空間と戯れることができるのである。
『日常的実践のポイエティーク』
ミシェル・ド・セルトー(著)、山田登世子(訳)(国文社)
ペレックが空間への問いかけ方を教えてくれた一方で、「もののやりかた」が日常の中でどのように実践されているか書かれた一冊。対象の視界の中で動き ...