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55周年特別企画 クリエイティブ未来会議

広告界40代クリエイター座談会「経験豊富な40代は『リセット』で新たな境地を開拓する? 」

国井美果×澤邊芳明×藤井一成

会社を経営したり、企業の中では中間管理職の立場が多い40代クリエイターによる座談会。実行力はもちろん、経験値もスキルも高度に到達したがゆえに見えてくる課題も多い。業界を牽引する責任感、若手の育成…。3人が導き出した答えとは?

公私共に「多様化」の渦中にいる40代

藤井▶ 一般的な会社で考えると、40代は中間管理職的な立場の人が多いのではないでしょうか。僕は会社の経営的な立場にいながら、クリエイティブディレクターとして現場でプロジェクトをリードしたり、プロデュースもしています。さまざまな側面の仕事をやらなくてはならないのですが、最近特に感じるのは、社会や得意先の課題が複雑になってきて、組織やチーム自体に多様性が求められているということ。多様性を評価していかないといけない立場なので、一つひとつに向き合いながら、どうまとめていくのかが課題です。

澤邊▶ 僕が思うのは、現場にいる人間が楽しんでいないのが広告業界の課題だということです。それが、広告業界に憧れを抱く若い層が減っている理由の一つなのかなと。今はソーシャルゲームなど流行のデジタル系会社に優れた人材が流れています。広告会社の仕事は企業の課題を解決するだけではありません。社会の問題を解決したり、広告を通じてさまざまなジャンルの仕事に携わったりすることもできる。その魅力が全く就活学生に伝わっていないんです。逆に社会起業家やボランティアなどをしたい学生にとっては、広告業界も受け皿の一つ。中長期的に見ても、それが伝わっていないことを危惧しています。

国井▶ 私が課題と思うのは、自分たちの働き方です。藤井さんから多様性の話がありましたが、公私のバランスの取り方も、もっと多様化していいはずと思っています。ただ、お2人は経営もされているから痛切に感じていると思いますが、そこは企業側の管理や評価の仕方も難しいですよね…。広告業界は以前より良くなってきてはいるものの、いまだ“残業があたりまえ”の風潮があったり、働き方の点で改善する余地が多くある。澤邊さんがおっしゃる広告業界の人が楽しんでいない理由の一つもそこにあるのでは。私自身、仕事、子育てなど悩みが尽きません。最近も大学時代の友人と集まったら、抱えている問題も、それぞれまったく違っているんですよね。夫婦関係、介護、子育て、体調の変化…と仕事も含め40代の境遇って最もバリエーションに富んでいるかもしれません。

藤井▶ 仕事では「多様性」という言葉を使っているけれども、社員たちの多様性を、われわれ大人が理解できていないことが多いのかもしれない。それがあってか、若手が会社に意気揚々として出社する雰囲気がなかなか感じられないんですよね。

澤邊▶ いまの若手は物欲があまりない傾向にあるようです。モチベーションが給料(お金)ではなく、やりがいがあるかどうか、自分らしいライフスタイルが維持できるかどうかにある。経営的な立場でいうとそこのコントロールが難しいんです。異動させたら、「やりたくないんで辞めます」だし。そうなると企業体としては維持・管理できにくくなります。生き生きと社員たちに働いてもらい、どう人材を育成するかはいつも悩みます。

藤井▶ モチベーションをアップさせる手段が難しいですよね。

国井▶ それはやはりカッコいい先輩の背中を見せるしかないんじゃないかと。私もそうやって先輩の背中を見てきましたし。

藤井▶ そうですね。「習うより慣れろ」じゃないけれども、そういう姿を見せるのが一番いいかもしれません。もっと時間を共有する機会を増やすとか、仕事が上手くいったときには「みんなやったよ」と喜びあう場面をつくったり。

澤邊▶ 以前ならば「カンヌ獲ろうぜ」と海外の広告賞に認められることがモチベーションの一つになっていたけれども、「別に…」という人もいるし。一人ひとりの特性を見て考えて伸ばさないといけない。1本化して組織としてまとめるのは本当に苦労します。

藤井▶ 極端な話、社内で違う言語の人がいるという感覚ですよね。そういう中でも、リーダーとしてプロジェクトを動かしていかないといけないので、そこのモチベーションを維持させることは、直接的に結果にリンクしていきます。その辺のダイバーシティのマネジメントが課題の一つですね。

    MIKA KUNII'S WORKS

    資生堂 コーポレートメッセージ


    資生堂 マキアージュ(雑誌)


    伊藤忠商事 企業広告(新聞)


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    国井美果(くにい・みか)
    東京都生まれ。コーポレートメッセージ、キャンペーンコピー、テレビCM、ブランド構築など、企業活動のさまざまな側面に関わる。主な仕事に、資生堂「一瞬も一生も 美しく」、資生堂マキアージュ「レディにしあがれ」、伊藤忠商事「ひとりの商人、無数の使命」、六本木の「スヌーピーミュージアム」、ベネッセの番組「しまじろうのわお!」企画参加など多数。ADC制作者賞、TCC賞、日経広告賞大賞など受賞。著書に『ミッフィーとほくさいさん』(美術出版社)などがある。ピンクリボンフェスティバル審査員。

仕事は日々刺激的 この面白さを若い人にどう伝えるか

澤邊▶ その点では、現在進めているオリンピックパラリンピックは機能しやすい。国家事業なのでやりがいがあります。クライアントのミッションも本来面白いものなんだけれども、そこにやりがいや面白さを若い層に見出してもらいたいですね。

国井▶ 企業やブランドを生かしていくことを、チームで一緒に考えていくのは面白いですよね。一つ言えるのは、チーム編成が仕事の成果を左右するということ。いろいろな分野のプロが集まって化学反応が起きる現場にいると、本当に面白くて、この仕事をやっていてよかったなーと思います。一人ではできない楽しさがあることを、就活学生に伝えたい。

藤井▶ 本当に面白いと思いますよ。広告業界に来てよかったと思うし、この歳になっても刺激を受けることが多くある。

澤邊▶ その面白さをどう伝えるか、そこに若干のギャップを感じています。

国井▶ そもそも広告業界に惹かれたのはなぜですか?それがヒントになるかも。

藤井▶ 大学生の頃はちょうどバブルの時期でしたよね。広告業界が大学生から見て、キラキラと輝いていました。なにか楽しそうな雰囲気に惹かれたのが純粋な動機です。

国井▶ 広告業界の楽しさを、マスメディア中心の尺度で見られてしまうことが多いのも要因ですね。

澤邊▶ やっぱりテレビの生態の影響は大きいですよね。マスメディアがソーシャルメディアに代わる中、テレビを持っていない20代も増えているそうです。そうなると、CMプランナーのクリエイティビティのすごさに気がつきにくくなる。それと広告のクリエイティブ自体も、コンプライアンスや消費者の炎上を恐れて丸くなって、憧れを抱きにくくなっていますよね。

藤井▶ ソーシャルメディアをのぞいて見ると炎上や潰し方が尋常ではありませんよね。

澤邊▶ 叩かれることを恐れると思い切ったことに挑戦できなくなります。

藤井▶ 「あれはダメ、これもひっかかりそう」と、コンプライアンスも厳しいところがありますね。もちろん制約の中で最大限のクリエイティビティを発揮するのが、僕らの頑張りどころなのだけれども、どこからかストップがかかってしまうことがある。

澤邊▶ クライアントも勇気を持ってもらえると面白くなりますよね。

藤井▶ デジタルの進化などでできることは増えてきたはずなのに、逆に日本の社会がシュリンクしている気がして、気にしなければならないことが増えてきた。それに、トレンド自体も小さく多様化しているから、マスメディアで大多数の消費を動かすようなことはなかなか難しくなってきたのかもしれませんね。

澤邊▶ なぜかなと考えたことがあるんです。それは影響力の行使だと思うんですよ。テレビで広告すればみんながいいと評判を呼び、消費を喚起できた時代はある意味、楽でしたよ。今はメディアとライフスタイルの多様化でその影響力の行使の仕方が変わりました。僕は「だからこそ面白い」と若い層に伝えたいんですよ。課題解決の方法は何もメディアに限った話ではありません。ショールームやイベントなどの空間をつくって …

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