「らしさ」と「らしくない」の間
デザイナーとして働き始めた当初の2005年頃、コンビニでとある商品を探していたとき、目に飛び込んできたのがチョコレート菓子の「ブラックサンダー」でした。手の平に乗るくらいの小さなパッケージで、黒を基調にしたカラーリング。柄のモチーフは、その名のとおり「稲妻(サンダー)」。
そこにセオリー、
王道はなかった
入社して5年ほど経った頃、ようやく独り立ちする機会を得ました。とはいえ、これから自分が何をするべきか、どうやればいいのか、日々暗中模索していました。そんなとき、書店で手にしたのが『流行通信』です。ロゴも表紙もこれまでとは全く違うデザインに変わり、雑誌を開いた瞬間に「うわ、これはすごい!」と驚いたことを覚えています。誰がアートディレクションしているのだろうと、クレジットを見たら「AD服部一成」と書いてありました。
服部さんはすでにキユーピーハーフなどの広告を手がけていましたが、正直に言うと、それまで服部さんがつくるものはそんなに自分には響かなかったんです。でも、『流行通信』のデザインは圧倒的、とにかく「すごい!」としか言いようがなかった。そこには雑誌のデザインのセオリーや王道はありませんでした。タイトルや見出しの級数がやたらと大きかったり、モデルをざっくりと切り貼りしたり、写真もスタジオを使わず、服部さんの事務所で撮影したものだったり…。確実に他の雑誌とは違う存在感を放っていました。同じ雑誌でもデザインが変わるだけで、こんなに魅力的になる――。書体云々とか細かいことではなく ...