クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第78回目は、アーティスト ミヤギフトシさんに自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『きのう何食べた?』
よしながふみ(著)
(講談社)
まだそんなこと考えるような年齢ではないけれど、ゲイであることと老いの問題について興味があって、この漫画はその意味でも特別な存在だった。両親との付き合い、仕事の変化、そして、何度も巡ってくる正月。その度に少しずつゆるやかに変化してゆく史朗と賢二の関係性、そしてふたりと両親との距離感。40代だった史朗も50代になり、老眼鏡を買う。それでもふたりは変わらず食卓を囲む。この漫画がある種の救いになっているのは、10代の頃に読んだ三島由紀夫「豊饒の海」における本多というキャラクターの老い方に衝撃を受けたからに他ならない。作中、彼がゲイであるということは明示されていないが、そのホモエロティックな視線に僕はどこか共感を覚えていた。しかしその晩年はグロテスクなものだった。その後も、老いるという点でロールモデル不在の状態が続いていた。だから、このふたりの中年男性はちょっとした希望となっている。ガンと診断されたと電話してきた母親に …