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青山デザイン会議

ヒットコンテンツに学べ!広く長く愛される企画の理由

菅原朝也×原田真史×福岡元啓

世の中には企画術の本があふれ、たくさんの発想法やプレゼンの仕方が公開されている。その多くは「天才ではなくても、企画は発想できる」と、新しい切り口を次々と考えだすための方法を指南する。だが、その企画を幅広いターゲットに受け入れられるものにし、長く愛される企画に育て上げていくための方法論は、あまり語られることはない。Webの片隅で話題になる“小さなヒット”ではなく、誰もが知っている“大きなヒット”はどのように生まれたのだろうか。インサイトをつかみ、ターゲットの共感を最大限に得る表現を研究し、伝え方にも工夫を凝らす。そうした“総合力”でヒットは生まれる。

今回は、小学館で次々とヒット小説を生み出し、映像化を果たしてきた出版プロデューサーの菅原朝也さん、人気番組『情熱大陸』の5代目プロデューサーである毎日放送の福岡元啓さん、小学生女児向けカードゲームとして社会現象とも言えるヒットを見せている「アイカツ!」の初代プロデューサーである原田真史さんの3人のヒットメーカーが登場。出版、テレビ、ゲーム、それぞれの分野でお仕事をヒットさせてきた戦略、長く愛されるコンテンツにできた理由、今後さらにパワーアップさせていくための取り組みを話してもらった。

左から、福岡元啓(ふくおか・もとひろ)さん、原田真史(はらだ・まさし)さん、菅原朝也(すがわら・ともや)さん

ヒット企画の仕掛け人それぞれの方法論

福岡 2010年秋から、「情熱大陸」の5代目プロデューサーを務めています。「情熱大陸」は今年で18年目になりますが、番組を継続させていく使命を背負う中で、上司からは「中興の祖になれ」と言われています。そこで、この番組に新風を吹き込むのが自分の役割だと、これまでの情熱大陸にはなかった新しい企画を色々と試みているところです。「情熱大陸」が当初から変わらないのは窪田等さんのナレーションと葉加瀬太郎さんの音楽、それと人物を追うというシンプルな3点です。ここを初代がきっちり作ってくれたので、あとは毎週特番の感覚で現場は制作しています。

原田 バンダイのカード事業部で「アイカツ!」プロジェクトマネージャーをしています。「アイカツ!」は小学生女児向けのカードゲームで、ゲームセンターで女の子が着せ替えゲームのようなもので遊んでいるのを見たことがあるかもしれません。ユーザーはアイドルの卵という設定で、服やアクセサリーのアイテムカードを購入してゲーム機にスキャンすると、ゲーム内のアイドルがアイテムを身につけます。コーディネートを進化させオーディションをクリアしながら、ナンバーワンアイドルを目指すんです。「面白いものは男女共通のはず」という原点に立ち返り、男児向けゲームで得たノウハウを転写して開発しました。カードゲームは設備投資やイベント開催などの環境づくりが肝で、コンテンツというよりはサービスに近い感覚です。

菅原 小学館で文芸出版のプロデューサーをしています。小学館の小説部門は、実質的には大手出版社の中で最後発です。私が1997年に出がけた松岡圭祐さんの『催眠』が1冊目です。経験やネットワークがない中で、どうやって小説を売っていくか。そのために取ったのが、小説を積極的に映像化するという方法でした。『催眠』はじめ、『世界の中心で、愛をさけぶ』『下妻物語』など、多くの作品をドラマ化・映画化していただいています。その都度花火を打ち上げて、それが大きく花開いてというサイクルを何年も続けているイメージです。

原田 テレビの力は絶大ですよね。「アイカツ!」はグループのサンライズ(現バンダイナムコピクチャーズ)という制作会社でアニメも作っています。女児向けにカードゲームを展開するというチャレンジングな企画だったので、バンダイの得意技であるキャラクターマーチャンダイジングを生かそうとはじめましたが、アニメをやるんだったらと仲間が集まってくれて。テレビの力を実感しました。成功確率を少しでも上げるためには、仲間は多い方がいい。小学館さんにもまだゲームができる前から「いい話があります」とご説明をしにいって(笑)、「アイカツ!」の隔月誌を出していただいています。

フレームとキャラクターから
企画は生まれる

菅原 私の小説のつくり方の多くは「企画ありき」です。例えば『県庁の星』という作品があります。著者の桂望実さんから、最初は「区役所からスーパーに出向した人の話を書きたい」とご提案いただいたのですが、設定は区役所よりも県庁にしたほうが読者ターゲットが圧倒的に広くなると考えました。日本に県は43あります。票田先にありきの発想です。また、意識しているのは、世間の潮流を疑うこと。当時は小泉純一郎さんが「郵政民営化」を説いていた時期で、「役人はダメだ」という意識が世の中にありました。でも、実際は役人には優秀な人が多いんですよ。だから、世間が批判している人をあえてヒーローにする作品をつくろうと思いました。このように「フレーム(世界観)とキャラクター」の設定をスタートから固めていきます。ヒットしやすくなるだけでなく、アニメや映画など、映像化もされやすくなります。

原田 バンダイはキャラクタービジネスがメインの会社なので、菅原さんがおっしゃった「フレームとキャラクター」を非常に重視しています。コンテンツを作るときって、嘘は許されないんですよ。でも、とても大きな嘘なら1つか2つはついていい。その嘘で世界観をつくりあげるのが、我々のやっているような消費系エンタメのポイントだと思います。「アイカツ!」の場合には、カードで着替えるという設定は嘘(フィクション)ですが、他の設定にはリアリティを持たせています。そして、その中にいかに魅力的なキャラクターを入れられるかだと思います。

菅原 小説ではキャラクターを先に決めてから中身を考えることもあります。同じく松岡さんの『千里眼』という小説に出てくる岬美由紀という女性自衛官がそうでした。ギリギリF15に乗れる体格の女性なのですが、人の性癖を見抜くのに長けている。彼女がどう活躍すると世の中に受けるだろうか、と考えて作られた作品です。

原田 面白いですね。「アイカツ!」はゲームもアニメも同時スタートしているので、これが原作というものはないんです。その代わり、各所から商品企画をご提案いただく際に面白い設定と共にプレゼンしてくださる場合があるので、それは面白い!となれば公式設定にどんどん投げ込んでいきます。常に門戸を開いていないと、キャラクターは次第に消費されていってしまいますから。難しいのは、アニメ、漫画、雑誌、イベントなど、表現方法が異なるさまざまなコンテンツを総体で1つのIP(知的財産)として見せていかなければならないところ。純粋なアニメ作品としては、アニメだけで突き詰めた方がコンテンツとしては面白いものができるはずなんです。それをあえてメーカーが一緒にやらせていただく以上、違う楽しみ方を提供できなければ申し訳ない。ゲームで遊んで、もっとアニメが好きになるとか …

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