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青山デザイン会議

オタクがメジャーになってきた

唐沢俊一/佐藤 大/柳田有一

アニメ、マンガ、声優、アイドル…いわゆる「オタク」と呼ばれるサブカルチャーは、時代の移ろいとともにそのイメージは変わってきました。いまや「サブ」ではなく「メイン」として成長、その影響力は増大で、日本を飛び出し世界各国を席巻しています。フランスではアニメブームを巻き起こし、中国ではアニメの有名声優が訪れるイベントのチケットが売り出されると、約7500円のチケット600席が1時間足らずで売り切れるほどの人気。この影響力に企業も着目し、広告や販促の領域でもオタクが活用される例が増えてきました。アニメやキャラクターをモチーフとしたCM、菓子類などのコラボパッケージ商品、ライブイベント、マンガやアニメの舞台を“聖地”と称し、地域振興に役立てる例も各地で見られるようになってきています。

直接的なファン層だけではなく一般層にまで広く話題になっていることからも、タレント以上の存在として起用されることも。また、ソーシャルメディア上では、有益な情報を持つインフルエンサーとして“オタク”の発信は無視できない存在となってきました。さて、この「オタク」。広告やコミュニケーションの領域で今後どのように発展していくのでしょうか?3世代にわたる識者たちが語ります。

オタク文化の先端は?

柳田 「オタクコンテンツラボ」という電通の社内横断プロジェクトチームで10代20代にヒアリングすると、彼らが考えるオタクとは、「好きなものにすごく詳しい人」程度の捉え方で、30代後半以上の80・90年代の現象を知る人のそれとは、捉え方が違うことがわかりました。

唐沢 元々オタクはNHKで放送できない差別用語。高校時代、オタクと自称するのは、ゲイであることをカミングアウトするようなもので、勇気が入ったな。今の子はアニメやマンガが生まれながらにある環境なので、抵抗がないんだね。

佐藤 僕はアニメの脚本を書く立場になって「かっこいい」アニメを作ろうとしたんです。それがジャパニメーションと呼ばれ、今のオタク文化を形成する一因となりました。日の当たらないままの方がよかったのでは?と思い返すことがあるんです。オタクが文化の中心にいるという意識は未だにないです。もしオタクがお洒落なものだったなら、これほど世界にインパクトを与えなかったでしょう。西洋文化に追随せず、無意識に独特のセンスを追い求めた結果、「世界のどこにもない」と新発見された。

柳田 90年代デザイン業界にあったバッドテイスト(悪趣味なもの)の延長線上にある変なものとしても根付いていきましたね。

唐沢 私は『宇宙戦艦ヤマト』ブームの火付け役にあたるオタク第一世代。オタクという概念がまだ確立していない頃に興味を持ちはじめ、発言もしてきました。今やオタクとしては半ば引退状態ですね。ただし、オタクが現代文化を解読する一つの鍵になるという立場は変えてません。

柳田 オタクの成り立ちはネットとバブルの影響が大きいんです。バブル期は煌びやかな世界にいるモテる人と対極にいるモテない人がアニメなどのオタクと位置づけられる傾向がありました。今は価値観が25歳前後を境に逆転。アニメ好きの子たちとの距離が縮まったのはネットのコミュニケーションに寄るところが大きいんです。

佐藤 たとえばガンダムはSFか否かの論争は、詳しくその世界の言語について知る人にとってプロレスを観覧するようなおもしろい弁論。コアな楽しみ方の一つでした。今の初音ミク世代のストーリー設定がないものを皆で遊ぶという行為はSNSで共有できる環境が必要で、アニ研探しからはじめていた昔に比べればずっとオープン。

柳田 今や若い子たちは仲間を探す目的でオタクを自称しています。

佐藤 コミュニケーションのツールになっているのは確かですね。

柳田 ファンと作り手の関係でいうと、宮崎駿監督ら作り手が表に出てきたのが90年代頃でした。

佐藤 僕らの世代で作り手を意識したアニメといえば『超時空要塞マクロス』です。当時、大学生がスタッフとして参加していたことが話題になり「このカットは〇〇が描いたもの」という話で盛り上がっていました。今の子たちは作り手に関心がないんですよ。『艦隊これくしょん』など作り手が奥にいる作品ほど、今は当たる傾向にある。初音ミクがその象徴ですね。

柳田 若年層向けの接点として、アニメキャラの広告が増えていますが、今後は減少すると思います。というのも、性格の強いものが好まれなくなってきているからなんです。ミクのように自分色にカスタマイズできる余白のあるほうが好まれる。

佐藤 『カゲロウデイズ』はその余白を作ることに成功したビジネスモデルですね。作者のじんさん含め、受け手の意見をそのまま吸い上げてヒーロー、ヒロイン像を作る。二次創作が一次創作になるというパラドックスの構造になっています。作者よりも作品世界に詳しいファンがいて、間違いを指摘してストーリーを修正するくらい作者との距離が近い。おそらくこの作品がオタク文化の先端にある気はしますね。

唐沢 しかしその萌芽は四半世紀前に既にありますよ。タツノコプロファンの集会で、登場人物の血液型の設定がおかしい、とスタッフに噛みついている女性ファンがいたのを目撃してます。

佐藤 はは(笑)。今は身長、体重、血液型、好きな食べ物などをプロデュース側から決めてほしいと言われます。

唐沢 僕はオタクの原型の一つにシャーロキアンと呼ばれるホームズファンがあると思うんだけど、彼らは原作にあるミスも愛している。そこらへんアニメファンは余裕がないですね。原作に描かれてない余白を想像して楽しむという遊びがない。

佐藤 『エヴァ』はまさに余白だらけ。それこそ評論家も含めファンが作り上げたファンタジー。一方、『進撃の巨人』は、誰もつけ入る隙がないほど世界観があらかじめ作り込まれています。今後、どう裏切っていくかが作り手の腕の見せどころです。

唐沢 オタク第一世代は、コミケという「場」を開拓したけれど ...

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