今から13年前、36歳という若さで世界最高峰のデザイン組織、国際グラフィック連盟(AGI)の会員に選出された北川一成さん。高度な印刷技術とデザイン力、そして経営センスにも定評があり、ヨーロッパの著名ブランドをはじめ国内外の多くのクライアントから支持を得ている。そんな北川さんが、論理的思考(ロジック)と身体感覚(感性)を惜しみなく伝授する「北川一成デザイン専門クラス」の開講が決定した。5年ぶりの開講を前に、北川さんの最新ワークを紹介する。
経営者と同じ視点に立ち求められる以上のことを提案
北川さんの最近手がけた仕事のひとつが、10月1日イオンが創業40周年記念商品として発売を開始した「ギリシャスタイルヨーグルト 白い宝石」だ。パッケージをはじめ、ポスター、店頭のPOPなど販促物のデザインに加え、商品名やトッピングの種類、味など商品開発にまで踏み込んだディレクションを行っている。
当初はパッケージデザインのみの依頼で、既に商品名の候補案がいくつかあったという。そのほとんどが競合商品を強く意識した名前で、北川さんは「かえって競合商品の中に埋もれてしまう恐れがあり、商品のイメージも狭めてしまうのではないか」と懸念した。そこで、“プレミアムなPB商品として、スイーツのイメージで売っていく”というクライアントの意向に沿って、GRAPHでネーミングを考案することに。商標登録が可能であるかも事前に確認しておき、「GRAPHが手がけるなら、こんな風になります」と、パッケージから広告までトータルで設計し、プレゼンテーションをおこなった。
「企画書を頂いたとき、改良の余地があると思いました。そのことを正直にお伝えし、ご提案させていただきました」と北川さん。経営者と同じ視点に立ち、デザインを通じて商品を「売る」ことに本気だからこそ、どうしたらヒットするか真剣に考え提案する。それは、この仕事に限ったことではないという。「クライアントが気づいていないことをお伝えすることは、対等に仕事をする上で絶対に必要なことです。私自身、自分の会社において何でも言うことを聞く“イエスマン”より、『恐れながら申し上げますが、自分はこう思います』と言われるほうがハッとするし、ありがたい。そういうコミュニケーションができない人は、ブランディングの仕事なんて任せてもらえないと思います」。
デザインの作法より大切なこと
パッケージは、これまでのヨーグルトにはなかった黒を基調とするデザインだ。よく見ると、カップの側面とフタそれぞれに配された商品名などのタイポグラフィがバラバラであることに気づく。デザインの作法から考えると、統一したくなるところだ。それに対し北川さんは「あえて統一しないことで、黒のパッケージから受けるスタイリッシュな印象を中和させているんです。昔からパッケージが変わっていないロングセラー商品のようなイメージで、大衆化しているイオンのみで販売する商品だからこそのデザイン」と話す。上質な雰囲気でありつつも、どこか懐かしく親しみやすい印象に仕上げるための工夫のひとつだという。
カラフルなフタの中には、トッピング用のソースが入っている。ソースの種類によって色を分け、フタの比重も大きめに設計している。「店舗で什器を下見していたとき、パッケージの側面よりも天面を直感的に見ていることに気づきました。そこで、側面よりもフタをカラフルにして目立たせることにしたんです」と北川さん。実は、ソースをトッピングして食べるというアイデアも、北川さんの提案だった。「たとえば、日本人は白いご飯とおかずと交互に食べて、口の中で味付けをしていますよね。それは『口中調味』という食べ方で、日本の食文化のひとつです。その食文化をヨーグルトにも取り入れたら面白いと思ったんです。その食べ方を『ギリシャスタイル』と呼ぶことで、競合商品との差別化も図れると考えました」。
売場を一新させるデザイン
広告用のポスターは、商品のビジュアルとギリシャ彫刻の写真、そして毎日牛乳という製造元の名称のみを掲載。余白をたっぷりととったデザインが特徴だ。「ティザー広告のような役割を目指しました。情報が少ないほうが『あれは何だろう』と気になるものです。白いなんとか、とか、あのギリシャ彫刻のヨーグルトとか、なんとなく記憶されれば店頭で見かけたとき『この商品のことか』と気づいてもらえ、そのほうが印象にも残るはずです」。
一方で、店頭POPは営業力を発揮させることを目的とし、商品の特長を手書きの文字で入れることで目立たせている。記されていることは、製造者側から見た商品へのこだわりや思い。SNSのつぶやきや友だちからの口コミのような短めな言葉にまとめている。「現代社会特有の情報拡散、共有手段を広告上に表現しました」と北川さん。ヨーグルト売場の雰囲気を一新させるほど、インパクトのあるデザインとなっている。
古典をひもとく年賀状
北川さんは、10月1日から予約が始まったセブン- イレブン・ジャパンの年賀状のデザインも手がけている。素材やデザインにこだわり心のこもった価値のある年賀状を作りたい、というクライアントの要望に対して、日本の古典をひもとき、年賀状を手にした人の教養も高まる付加価値のあるデザインを提案した。「干支の未や松竹梅などのお正月らしいモチーフは、歴史を掘り下げ、日本で古くから使われていた文様を引用しています。たとえば、未は正倉院の屏風絵にある羊の絵をもとに描き下ろしました」。
自然の畏敬の念から生まれる神秘性をにじませ、北川さん独自の世界観で表現した独創的なデザインは、目を見張る出来栄え。紙にもこだわり、絵柄には彫刻型によるエンボス加工や金・銀の箔押しをふんだんに用いている。高度な印刷を得意とするGRAPHだからこそ実現できた加工の数々は、大胆かつ繊細で、うっとりするほど美しい。お正月にふさわしい豪華な印象だ。
今回紹介した事例は、北川さんが手がけている仕事のほんの一部。「北川一成デザイン専門クラス」では、こうした事例の裏側にある北川哲学を徹底的に講義するほか、毎回、課題演習も実施する。決められた時間内にデザインを起こし、完成した作品の一部はプロジェクターに投影しながら北川さんが自ら添削指導も行う予定だ。北川さんの人間力と造形力を間近で体感し、習得できる講座として期待されている。
北川一成デザイン専門クラス
開講: 2014 年12 月13 日(土)
日時: 月1 回土曜日・午後1 時~午後5時 全16 講義
会場: 東京・南青山
受講料: 200,000 円(税別)
対象: デザイナー、アートディレクター、Web デザイナー
●ゲスト講師
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