「らしさ」と「らしくない」の間
デザイナーとして働き始めた当初の2005年頃、コンビニでとある商品を探していたとき、目に飛び込んできたのがチョコレート菓子の「ブラックサンダー」でした。手の平に乗るくらいの小さなパッケージで、黒を基調にしたカラーリング。柄のモチーフは、その名のとおり「稲妻(サンダー)」。
デザインの見方
正月広告といえば金色や赤色などおめでたい色に彩られた華やかなものをよく見ます。でも、井上嗣也さんが手がけた89年のパルコの正月広告“Tree〞は、モノトーンでざらっとした巨木の質感とその存在感に圧倒される、およそ華やかな正月らしさとは無縁のポスターでした。当時、美大生だった僕は渋谷パルコの店内でこのビジュアルに触れました。一種類だけであればこれほどの印象を持たなかったかもしれないけれど、縦と横に何種類かが店内に貼ってあり、木と木のビジュアルが有機的につながることで、巨木の森に迷い込んだような異次元の空間にいるようでした。グラフィックデザインは一枚のポスターで完結するもの。そう思い込んでいた美大生の僕に、新しいビジュアルの可能性をはっと気づかせてくれたポスターです。
「愛する人は、いま何歳ですか。」「ほほう。そうですか。」巨木の傍らに置いてあるコピーは糸井重里さんによるもの。木と木が会話をしているような、コピーとビジュアルの絶妙なマッチングにグッときます。通常、コピーはビジュアルの説明をしがちですが、このコピーは考えさせられる。近年僕らが猛省しなくてはいけないのが「わかりやす過ぎる」ビジュアルコミュニケーションだと思っています。クライアントがそれを望んでいる部分もあるかもしれませんが、すべてを明らかに詳らかに説明すると、人の興味関心は一時で、いずれ通り過ぎてしまうでしょう。「なんで正月広告にこのビジュアル?」と少し謎を残すことで、惹かれていくのです。見る人の知的好奇心を刺激し、理解しようとする力を働かせるのです。このビジュアルは考えさせる上に、 ...