アカウントプランナーとクリエイターの協業によって作られた過去の名作広告には、どのようなものがあるのか。海外の広告制作に詳しい狐塚康己さんが、世界の名作広告からインサイトを読み解き、どうクリエイティブに昇華されているかを解説する。
メッセージの方程式
日本ではなかなか難しいアカウントプランナーとクリエイターの協業だが、海外ではこの30年ほどで標準的な形となってきた。アカウントプランナーが消費者の心の洞察=インサイトを通じてクリエイティブ戦略を作り、クリエイターはその戦略のもと斬新なアイデアを爆発させる。このインサイトに向けて伝えるべき内容がメッセージ、インサイトからメッセージを絞るプロセスがクリエイティブ戦略であり、このプロセスがメッセージの方程式である。クリエイターはこのメッセージを最大限新鮮なアイデアにして、消費者の心に点火するというわけだ。
この協業が効果的な英国のタバコ「シルクカット」の広告(01)で例を見てみよう。1987年のこの頃、嫌煙運動の高まりに配慮して、英国ではタバコの名前やパッケージなどを出す広告が禁止された。しかしこのとき、タバコブランド「シルクカット」を担当するアカウントプランナーは、そんな状況下でタバコの広告を可能にするメッセージを編み出した。
インサイトは「シルクカットの広告は禁止されたはずだ」というもので、シルクカットの存在を伝えたいのに、名前もパッケージも出せない状況を逆手にとって、商品名を逆にした「Cut silk(シルクを切る)」というメッセージで、シルクカットの存在を伝えようと試みた。そのメッセージは見事、クリエイターによって、糸巻きに巻かれた紫色のシルク糸がプツンと切られている写真になり、さらに「喫煙は心筋梗塞を起こします」というタバコの危険性を警告するコピーを入れることによって、タバコの広告であることを明らかにした。このアイデアはいまでもシルクの帽子に変わるなどしながら使われていて、「タバコの広告は禁止である」という社会心理的インサイトに向けて発射され続けている。
アイデアも秀逸だが、プランナーのインサイトをとらえてメッセージを作り出す能力はもっと優れている。これこそアカウントプランナーとクリエイターの協業である。
インサイトの3方向のとらえ方
一般的なインサイトとは、その商品やブランドに関するターゲットの本音を探ることである。クライアントが知りたがっている、「ターゲットインサイト」と呼ばれるものだ。例えばアメリカで掲出されたエビアンの広告(02)を見てみよう。迫力あるフランスアルプスの写真に「Ourfactory.(私たちの工場です)」というキャッチコピーがついている。アルプスを工場と置き換えた新鮮なアイデアは、どのようなインサイトに向けて放たれているのであろうか。富士の湧水や六甲の水と違い、エビアンは名前は有名でも産地や水源は意外と知られていない。インサイトは「エビアンはどこの水なのか」。消費者が潜在的に知りたがっているのが水源なのは、アメリカ人も同様だ。日本で私が担当したコロナの広告(03)も同様に、他のブランドでも当てはまりそうなインサイト「名前は知っているが、探してまでコロナは飲まない」から出発している。