Photo :harumi ikeda(acube/amanagroup)for BRAIN
安倍内閣が成長戦略の一つとして「女性活用」をとなえ、企業の経営戦略としてもダイバーシティに注目が集まっている。働く母親がこれまで実践してきた時短勤務は、勤務時間内に生産性を上げるための働き方のモデルとして、新たな観点でとらえられるようになった。こうした大きな流れに呼応するように、広告会社内に母親クリエイターによるクリエイティブ開発チームがつくられたり、出版社の中に女性誌編集長による「女性インサイト研究所」が発足するなど、クリエイティブやマーケティングの領域でも女性の視点を取り入れようとする取り組みが活発化してきた。女性の視点によって、今後クリエイティブの領域にはどんな変化がもたらされるのか。今回の青山デザイン会議では、アートディレクターで一児の母であるえぐちりかさん、「女ゴコロマーケティング研究所」の所長として女性市場専門のマーケティングコンサルタントとして活躍する木田理恵さん、資生堂で女性に向けたクリエイティブを数多く手がけてきたアートディレクターの成田久さんの3名に、女性らしい視点から生まれるクリエイティブとその可能性、そして女性が仕事でもプライベートでもより輝きを増す方法を話し合ってもらった。
女ゴコロをつかむ方法
木田▶ 15年ぐらい前まで、商業施設開発のコンサルティングの会社にいました。女性向けの商業施設でも、開発しているのは実はほとんどが男性で、企画を通すために定量データや過去の実績、競合分析など、男性を“攻略”するためのデータづくりにいそしむ日々。女性の「ほしい!」や「好き!」に訴えかけるワクワクする仕事がしたい、という気持ちの行き場がないまま、毎晩遅くまでくたくたになるまで働いて。それって、女である意味があるのかな?とだんだん苦しくなってきたんです。そんなとき、女性視点マーケティングの会社と出会って、これなら、女である自分の人生をあきらめずに仕事をしていけると思ったのが、女性市場専門のマーケティングコンサルタントになったきっかけです。
成田▶ そういう意味では、資生堂はお化粧品を扱う会社なので、女性視点を持っているのはある意味あたりまえで、女性社員が多いです。だから、今日のテーマを聞いて「遅い!」って思っちゃいました。資生堂でアートディレクターをはじめて10年以上経ちますが、最近は僕のセクションにもようやくお母さんが増えてきて、ちょっとしたママブームです。女性は、ミーハーやおしゃれに対してどん欲で、ママであっても女性であることを楽しんでいる。その中で、皆さんをもっとおしゃれに、かわいくする活力をつくるのが僕の仕事です。
えぐち▶ 成田さんがつくるものを見ていると、女の人よりも女の人のことをわかってるように感じます。私は3歳の子どもがいるんですが、子どもができるまで自分の女性視点をあまり意識したことはありませんでした。ママになって、女の子向けや家族向けの仕事が増えて、初めて女の人の心をつかむってどういうことだろうと考えるようになりました。ふだん「女性視点」「母親視点」を意識してものづくりをしているわけではないけれど、生活の中に自然と入ってきているので、自分の本当にいいと思ったことを素直に提案するようにしています。
成田▶ 僕も「どうやって女ゴコロをつかもう」と考えたことはないんですよ。ただ、子どもの頃から女の子的な感覚が強いことは自覚していました。小さいときからピンク・レディーが大好きだったんです。(松田)聖子ちゃんやキョンキョン(小泉今日子)、(中森)明菜ちゃんの曲のための衣装をつくることに憧れていたり、そこから広告で当時スターをつくっていた資生堂にも興味を持ちました。祖母に連れられて、日比谷の日生劇場にもよく行っていました。そういうことで、女の子的な感覚がつちかわれたのだと思います。僕はヒット商品をつくるのが大好きなんですよ。純粋にヒットが好き、一番が好き、オリコン大好き!それに、みんなが好きなものって愛されているものじゃないですか。
えぐち▶ 資生堂の中には研ぎ澄まされた美しさをつくるクリエイターもいる中で、成田さんは、普通の女の子のハートをギュッとつかむ“どメジャー”がうまいって思います。
成田▶ 僕にとっては、いまきゃりーぱみゅぱみゅが売れていることや、スカート男子が増えているのはいたって普通のことです。「やっとこういう時代が来たな」って思います。日本人はもっと女子みたいに、欲求に正直に生きたほうがいいと思う。頑張るところは頑張らなきゃいけないんだけど、もっと楽しく頑張ればいいじゃないって。男の人が男を頑張らなきゃいけないっていうのが、見ていてちょっと辛くなっちゃう。
男らしくなくていい、女らしくなくていい
木田▶ 女だから女性的であらねばとか、男だから男性的であらねばと考えがちですが、人間の中にはどちらの性もあると思うんです。考え方がどちら寄りなのかというだけで。社会の中で生きていくうえで、どちらをより表に出していくかなんだと思います。社会に出て働くためには男性的であらねばならないという価値観は、いまの時代には合わなくなってきています。長時間労働して、無理がきいて、日本全国どこへでも転勤できる人でないと管理職になれない...となったら、天涯孤独で家族をかえりみない人しか会社で働けなくなってしまいますよね。これからは、仕事を頑張りながら、家庭も大事で、子育てもしたくて、時間のバランスは仕事も子育ても同じぐらい大切というスタンスでも、仕事のチャンスは巡ってくるし、できる人がちゃんと注目も浴びる時代です。
成田▶ 昔だったらモデルも結婚、出産したら一線から退いていましたよね。でも今は、梨花さんや(吉川)ひなのちゃん、長谷川潤ちゃんなど、出産しても、そのライフスタイル自体が共感を得るようになってきた。自然体で、お母さんでもあるけど女である、そんな人が素敵だなって思います。はたからは感じさせないけど、きっと本人たちは、かなり頑張っているんだと思います。そうじゃないと自分が嫌なんだろうな、と。大変だと思うけど、うらやましい。それって男にはできないことだから。
えぐち▶ ママになって、私は世の中と新しいつながりができた気がしました。街で歩いてるママを見かけると、全員仲間だ!って思っちゃう(笑)。この大変さを共有してるんだって。いままで使わなかった商品やサービスを使う機会が増えて、自分ごとになったことで、視点も変わりました。みんなが「いい」と言うもののよさやありがたみがわかったり、クライアントの話も、出産前より「わかるわかる」と思って聞けています。自分の中に、もう1人新しい人間が生まれたというか、新しい引き出しができた感じで、表現の幅も広がりました。
RIKA EGUCHI'S WORKS
TBS「TBS 6チェン!」(2010-2011)
ラフォーレ原宿「Laforet Xmas」(2009)
SoftBank PANTONE6「PANTONE∞」(2013)
世界最多25色のスマートフォンにガラをプラスすることで複数のバリエーションから好きなデザインをつくる企画。CMも担当。
講談社「優香グラビア&ボディー」(2012)
表紙に顔のないグラビア。ネーミングおよび装丁。
ベネッセ「ベネッセこどもちゃれんじbaby」教材玩具トータルデザイン(2013)
オリジナル絵本とプレイマットなどの玩具を制作。キッズデザイン賞2013受賞。
高橋大輔選手のフリープログラム コスチュームデザイン(2011-2012)
高橋選手より渡されたブルースの楽曲をもとに衣装案を企画。ミッドナイトをテーマに真夜
中にあるさまざまな黒の艶を表現した衣装デザインに。
カーリング女子前オリンピック代表「チーム青森」
地元の大漁旗を使ったユニフォームデザインおよび応援アイテム制作。グッドデザイン賞
2012受賞。
残業も家事、育児も互いに半分ずつ
成田▶ いま、えぐちさんはどんなスタンスでお仕事をしてるんですか?
えぐち▶ 週の中で残業していい日を夫と分担しているんです。週の半分は残業していいけれど、残りの半分は定時で帰ってきて家のことをする。互いにフラットで平等なんですよ。例えば、1週間ものすごく忙しかったら、次の週は私がやる、みたいに常に半分半分。自分の仕事がうまくいっていても、じゃあ相手はどうだろうといつも相手のことを考えているし、夫も「今日すごく仕事を進められた、その代わり、家のことや子どものこと見ていてくれてありがとう」と言ってくれる、そんなサイクルができています。それは、どこかにお手本があったわけじゃなくて、2人でつくりあげてきたものです。周りには時短で働いたり、家で仕事をしているママも多いのですが、私はいまも出産前に近いペースで働いています。これは、私と夫、2人でセットだからできることだと思います。2人ともお父さん、2人ともお母さんという感じで。うちは周りがそういう働き方を認めてくれたからできていますが、子どもを持つ家族にはそれぞれにスタイルがあるわけで、状況に合わせてもっと働き方の選択肢が増えたらいいのにと思います。
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