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青山デザイン会議

未来のビジョンを描く力

川田十夢×瀬名秀明×玉樹真一郎

世の中の関心の多くが“いま”起きていることに集まるなか、クリエイターの役割のひとつは、これからやってくる未来の生活や、新たな価値を具体的な形で見せることだ。ヘンリー・フォードが「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」と言ったように、具体的な物や言葉、ビジュアルを眼前にしてはじめて、人はそれを欲しいと感じたり、実現のための行動を起こせる。近未来を舞台にした映画の世界が科学者によって実現されたり、企業のトップが明確なビジョンを持つことで、一貫してブレない商品やサービスが生みだされたり...。これらはすべて、未来のビジョンが的確に、力強く、魅力的に描きだされたゆえだ。こうした言葉やビジュアルを生みだす実践者たちは、その価値観をどう見つけ、伝えているのか。未来を舞台にした小説を数多く送り出してきた作家の瀬名秀明さん、ARを使った“近未来”の表現を探求するAR三兄弟の川田十夢さん、「Wii」のコンセプトワークからプレゼンまでを担い「Wiiのエバンジェリスト」と呼ばれる玉樹真一郎さんの3人が、共感される未来を描き、実現する方法をめぐって話し合う。

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左から川田十夢さん、瀬名秀明さん、玉樹真一郎さん。

倫理観と想像力のバランスで決まる

瀬名▶ 私は普段、主に小説や科学ノンフィクションを書いています。こういう広告関係の雑誌は慣れていないので、今日は少し緊張しています。

玉樹▶ 僕も不慣れですが、よろしくお願いします。元々プログラマーとして任天堂に就職し、やがてコンセプトワークを任されるようになり、Wiiの開発に関わったのち、Uターンした青森でコンサルティングや地域活性化の活動をしています。今日は皆さんとお話しするのを楽しみにしてきました。

川田▶ 僕はこういう場、超、慣れてます。ミスタークリエイティブです!...と言っておいたほうが、ここは面白いですよね(笑)?冗談はさておき、僕も今日とても楽しみにして来ました。おふたりとも、現実に作用する技術を持ちながら、想像力を具体的な未来に傾けている方じゃないですか。広告って「未来っぽい」ことはけっこうするのに、具体的な未来について語る機会って、実はあまりない。ちょうど7年後のオリンピック・パラリンピック招致も決まったことですし、ちゃんと考えるいい機会だと思っていたところです。

瀬名▶ よく思うのは、未来への想像力というのは、その時代の倫理観とのバランスによって、受け入れられ方が変わるということです。オリンピックの話題で盛り上がっているので思い出しましたが、10年ほど前に、パラリンピックを題材にした『モノー博士の島』という短編小説を書いたんです。タイトルからわかる通りH.G.ウェルズの『モロー博士の島』をもじった内容で、科学者のモノー博士が、孤島の研究施設に身体的な障がいを持つ人たちを集めて、非常に高度な補助器具を提供するんですね。博士は、そのサイボーグのように超人的な身体機能を備えた人たちが、健常者を超えた存在になるという超人思想を持っているんです。実際に医療・科学技術の発展によって、世の中的にも、オリンピックよりパラリンピックのほうが優れたスポーツショーとして見られるようになっていく。そういう未来をテーマにしたSF小説なんですけど、発表した当時はとても気味悪がられました。SFじゃなくホラー扱いでしたね。当時はパラリンピック自体がいまほど一般的ではなかった背景もあると思います。

川田▶ 倫理観と想像力のバランスというのは、面白い観点ですね。そのお話を聞いて、中学生の頃に「内臓コーディネーター」という、人の臓器の配置をデザインする仕事を妄想して友人に気持ち悪がられたのを思い出しました。それは、肝臓のどの部分をどんな機械に置き換えれば悪酔いしないかといったことを、コーディネートしてくれる専門家なんです。しかも、そのデザインが可視化できて、皆が自分の内臓のパーツやデザインを、居酒屋で飲みながら自慢し合ったりして。真面目な話、これもそのうち現実に出てくると思っているんですけど。

玉樹▶ ぱっと聞くと現実離れしているようですけど、ありえるかもしれない。瀬名さんのパラリンピックのお話は、すでに現実が近づいてきていますよね。

瀬名▶ そうなんです。実際に、両足義足の陸上選手が、パラリンピックではなくオリンピックに出場する時代になりました。倫理観って、そうやって時代によって変わっていくんですよね。そういった例はいくらでもあって、「試験管ベイビー」という言葉も、昔は人道的に不自然だとかそういうニュアンスで使われていたと思います。でも、いまや小学生の何十人かに1人は体外受精によって生まれている子どもです。時代の倫理観は、技術の進化を追いかけるような形で変化していく。その速度が一致したとき、リアリティを持った未来像になる のではないでしょうか。

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伝えるために、技術に表情を与える

玉樹▶ 「怖い」とか「気味悪い」という感覚は、未来の大きなヒントだということですね。ここでテーマになっている「未来」は、ただの時間軸の話ではなく、現在と比べて、何かが変化した状態のことを表す言葉です。とすると、未来は、現時点で理解のおよぶものではない可能性が高い。それこそ、怖い、気持ちが悪い、正しいと思えない、違和感がある...そんな、何か嫌な感じを抱くものではないかと。馴染んでいるものや心地のいいものって、変わる必要がない。だから、違和感に着目したほうが、未来をたぐり寄せやすいと思います。その変化が、人類にとって有益かどうかは、別の話ですけど。

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