クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第55回目は編集者の森田真規さんが登場。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞いた。
『なんとなく、クリスタル』
田中康夫(著)(新潮文庫)
1980年、一橋大学の学生だった田中康夫氏が発表したこの小説では、「なんとなく気分のいい生活」を自由気ままに送る、女子大生の日常が描かれています。
そんな本書を一風変わった小説として特徴づけているのが、小説内に登場するブランドなどについて、脚注が442個もつけられていることです。この小説のモチーフについて、文庫版のあとがきで田中氏はこう書いています。
「今までの日本の小説に描かれている青春像とは違う、皮膚感覚を頼りに行動する、いまの若者たちが登場する小説」
ここで取り上げられている流行は、いわゆる「サブカル」に分類されるようなものではなかったでしょう。ただ、「皮膚感覚」を頼りにひたすら肯定的に記号を消費し、都市空間を遊歩するこの小説の登場人物たちの日常は、サブカル少女/少年のそれと変わらぬものに思えます。